還暦の小曽根真

 朝起きてカーテンを開けたら、外は雪景色だった。今日は寒くなるぞとは聞いていたが、まさか積雪があるとは思わなかった。雲が多く、雪がまだちらついてはいるものの、陽が射していてとてもきれい。積雪とは言っても、1㎝くらい。かろうじて白くなっているだけ。予報通り、真冬日一歩手前の寒い一日だった。
 今日の午後は、家族連れだって市の複合文化施設「マキアートテラス」というところに、小曽根真(おぞねまこと)のリサイタルを聴きに行った。「OZONE60」と銘打った、小曽根真の還暦記念全国ツアーの一環である。
 小曽根真は、テレビなどでもよく目にして、面白いピアニストだなぁ、と思っていた。6年前に東京都交響楽団石巻に来た時(→その時の記事)、初めて実演を目の当たりにして、聞きしに勝る面白さ(同時にすばらしさ)だなとファンになった。いや、ファンになったのはむしろ妻である。今回だって、小曽根真が来ると知った時からそわそわし始め、子どもたちにも「小曽根真行くよ」と宣言し、渋る子どもに「絶対面白いから一緒に来なさい」「予定入れちゃダメだよ」とたたみかけていた。
 さて、小曽根氏は意表を突いて、客席の後方から「こんにちわぁ」と言いながら登場。還暦ということで、赤いタキシードだ。演奏曲目は知らされていない。多分次の通り(終演後、会場の外に掲示してあったが、明らかに違うと思われる部分もあったため)。


(前半)
・ストゥッティング キタノ
・モスコフスキー 「小練習曲」第8番
・オルウェイズ トゥギャザー
・リッスン~耳を澄まして
プロコフィエフ ソナタ第7番第3楽章 (不確か)


(後半)・・・金色のタキシードに衣装替え
ラヴェル ピアノ協奏曲第2番第2楽章 (不確か)
・クバーナ チャント
・映画「アルフィー」の音楽
・オベレック
・誰かのために


 期待どおりにとても上手い。プログラムにもそれなりの変化があって、決して飽きさせない。しょせん私より1歳年長というだけなのだから、当たり前かも知れないが、「還暦=赤いちゃんちゃんこ」という老人の雰囲気は全くない。立ち居振る舞いから音楽まで実に若々しい。「手に汗握る」とまでは言わないが、時間はあっという間に過ぎていった。
 さあアンコール、という段になって、紹介したい人がいると言う。小曽根氏の手招きに応じて舞台袖から登場したのは、ポール・Mという韓国人ピアニストと、歌手であるその妻シオン。東日本大震災をきっかけに日本に目を向け、その後移住して小曽根真の弟子になったという。始めてから7年という日本語は、驚くほど正確できれいだ。
 アンコールであるにもかかわらず、小曽根氏は客席に下りて座り、ポール+シオンによるクリスマスソングが始まる。2曲目は「聖しこの夜」。伴奏は小曽根+ポールの連弾だ。ある意味で非常に余計な企画ではあったのだが、登場した2人の非常に誠実そうな雰囲気のおかげもあって、これはこれでよかったかな、という気になれた。
 ピアノ教室の発表会でもなければ、同じピアノを違う人が弾くのを聴く機会というのは少ない。驚くほど音色というのは違うものである。ポールの音は小曽根氏の音に比べて非常に硬質(←「違い」であって「優劣」ではない)。ピアノのような重厚巨大な楽器でも、弾く人によって音色が変わるというのはよく言われることで、私自身も「○○は音のきれいなピアニストだ」というような論評をしたこと少なくないと思うのだが、これほど目の前で音が変わるとやはり驚く。案外、今日1番の新鮮な驚きはその点だったかも・・・。