理念なき石油補助金

 先週末、現在1リットル当たり35円も(!!)支給されている石油補助金が、今年末まで延長されることになったという報道が出た。官房長官なり首相なりが事情を詳しく説明したのかも知れないが、私は聞いていない。新聞記事を読む限りでは、その説明の杜撰さに呆れるしかなかった。と言うよりも、説明らしい説明はなかったと言ってよい。
 私は最初からこの補助金には反対している(→こちらの記事)。今回の物価高騰は、エネルギー、食糧を始めとする多くの物を外国に頼っていることから来る構造的なものである。変化が急激だからと言って補助金で緩和させようとしても、それは付け焼き刃に過ぎない。しかも、特に石油に関しては、少しでも消費を減らす方向に誘導しなければ、パリ協定の順守も、その背後にある地球温暖化の解決も実現しない。私は以前から、石油の値段は安すぎると言い続けている(→その例)。掘って燃やしてしまえばそれでおしまい、絶対に再生されることのない資源である。地球が文句を言わないのをいいことに、今のような勢いで消費することが許されるわけがない。今、「地球が文句を言わないのをいいことに」と書いたが、気候変動こそが言語を持たない地球の「文句」なのだろう。
 政府が仮に石油補助金を継続するなら、なぜ石油の値段が上がっているのかということについての説明をし、それに基づいて物価の変動についての今後の見通しを語り、補助金を出すことによって何が起こるのか、その財源はどうなっているのか、というようなことを、少なくとも10年くらいの時間スケールで語る必要がある。必要となるお金の総額(3.2兆円)については政府も語っているが、財源については語っていないのではあるまいか(前回は筋違いの予備費だったので、今回の上積み分もだろう)。どうせ最後は国債頼みだ、という気がする。
 非課税世帯への5万円給付はある程度仕方がなく、以前のように全世帯というよりはましだと思うが、何しろ国葬問題で支持率低下の折である。ある種の懐柔策であろうとの疑いは免れない。
 とにかく、場当たり的なのだ。もちろんそれは国民の視野とパラレルなのだろうけど、単に国民のご機嫌を取ることだけを考えて政策決定するのはプロの仕事ではない。たとえ国民の感情に反することでも、長い時間的スケールに立ち、事実に基づく論理で説明と説得ができるのがプロというものだろう。通常、有権者の意識の問題で、長い時間スケールで政治をすることは難しい。だが、前回の参議院議員選挙の時によく言われたとおり、向こう3年は国政選挙がない。単に与党の議員が好き勝手をやり、政治を私物化するためではなく、長い時間スケールで行動することのためにこそ利用するべき「黄金の3年」である。