昨日から、仙台一高井戸沢小屋に行っていた。築後50年が経過して、井戸沢小屋も老朽化が目立つ。構造物そのものにはあまり問題がないことから、今月末、少し大きな改修工事を行うことになった。その下準備として、小屋内部の物を移動したり、粗大ゴミと言っていいような様々な物を搬出したり、といった作業が必要になった。
この日程で作業をするということは、しばらく前に決まっていたのだが、私は参加の可否を表明せずにいた。8月以来、天気の悪い日が多い。いくら山小屋に行っても、雨のために作業ができず、ただただ酒だけ飲んで帰ってくるのは嫌だな、という思いからである。1週間くらい前には、かなり絶望的な予報だったが、3日ほど前から状況が好転し、ほどほどに晴れそうだとなった時点で、参加を表明した。電車で仙台まで行き、M君の車に乗せてもらって蔵王を目指す。他に、S君とY君。1台の車に4人乗っていると、罪悪感はかなり小さい。
2日間、素晴らしい天気だった。特に昨日は、正に「雲ひとつない」快晴。集まった6人で、当初の予定通りの作業をすることができた。私は、押し入れの中の物や、床を張り替える予定の場所に置いてあった収納棚の移動をした後、古い鍋釜類を中心とする粗大ゴミをエコーラインまで運び上げ、帰りは薪を運び下ろすという作業(ボッカ)を2回やった。5時半から始まった宴会のビールは美味い。
折しもこの日は中秋の名月、お月見であった。夜になっても快晴で、まぶしいほどの満月が烏帽子岳の上に見えていた。加えて木星!月の少し左に、負けじと明るく輝いている。
酒の飲み過ぎでのどが渇き、水を大量に飲んでトイレが近くなった。なんと夜中4回も外に出た。3時半に外に出たときには、冬の星座であるオリオン座がかなり高く上がってきていた。最初のうちは満月を愛でて喜んでいたのだが、月が明るすぎて「満天の星空」とはいかないことが、だんだん残念に思われてきた。
今日は、内部の大掃除の後、10時過ぎに粗大ゴミを持ち帰りがてらエコーラインに上がり、そのまま下山することにした。刈田峠付近の路肩スペースには、南蔵王に延びる稜線を歩きに来たと思しき人々の車が大量に止まっている。ナンバーを見れば、「宮城」「山形」だけではない。「庄内」「郡山」更には「宇都宮」「水戸」といったナンバーも見える。日帰り登山は比較的近くから来ている人が多いが、エコーラインを走っている車となれば、正に全国各地からだ。
刈田峠から見る烏帽子岳や屏風岳方面に続く樹林は美しい。が、今回同行者とそれを見ながら語り合ったのは、おびただしい数のアオモリトドマツが立ち枯れしていることについてである。今になって初めて気付いたということではない。何度見てもショックを受ける、ということである。
昨年9月27日の河北新報によれば、トウヒツヅリヒメハマキやトドマツノキクイムシによる食害だそうである。特に被害が大きい「激害地」は、蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅付近で、そこはほぼ全滅の状態にあるという。
有名な話、蔵王のアオモリトドマツは、冬には樹氷となる。虫による食害が温暖化と関係するかどうかは定かでないが、樹氷は温暖化の影響で、今世紀末までには見られなくなるのではないか、とも言われている(2017年の山形大学による調査)。枯れたアオモリトドマツの樹氷は、生きている木の樹氷よりも小さく、「アイスモンスター」と呼ばれるような立派な樹氷には育たない。食害と気候変動によって、樹氷らしい樹氷が見られるのもあとわずか、ということだ。もちろん、美しい樹氷を見ることができなくなるのは残念だ、というレベルの話ではない。そうして地球が壊れていく、それを目の当たりにすることが恐ろしいのだ。
天気のいい山は美しいが、そこで各地から来ている車のナンバーを見ながら、例によって、私はそうして娯楽のために消費される石油=排出される二酸化炭素、いや、自分たちの行動の環境負荷が一切気になっていないであろうことにおののく。ま、今日に関しては、私たちだって大同小異なのだけれど。