昨晩は、ラボの第29回であった。今回ご登場いただいたのは、地元石巻専修大学理工学部の教授・根本智行先生。演題は「秋の七草 萩の特徴と分類」であった。
萩はマメ科の植物である。宮城県民である私たちにとって、県花がミヤギノハギであるゆえに、とても身近な植物だ。歴史的に見ても、『万葉集』に見られる植物を詠み込んだ約1500首の歌の中で、萩を詠んだものは約10%に当たる142首を数える。もっとも、その理由は、必ずしも萩が昔の日本人の好みだったとか、多く生えていたということではなく、萩の古名「芽子(めこ)」が「女性」を表す単語と同音であったため、恋の歌を詠む時のツールとして使いやすかったということがあったようだ。それでも、人々にとって身近な花であったことは疑いない。
しかし、身近であって見る機会が多いということと、その植物の性質について知っているというのは別である。
萩にはヤマハギ亜属とハギ亜属の二つのグループがあり、前者はアジアだけ、後者はアジアと北米に分布しているらしい。先生は葉や花の形状、それらの付き方といったものを豊富な写真とスケッチによって解説してくださった。そんなお話を聞いていると、日頃自分が、いかに何も考えずにものを見ているか(何も見えていないか)ということが分かって愕然とする。先生は、最新の遺伝子解析によって萩がどう分類されるかということにも言及していたが、それによれば、萩にも信じがたいほど多くの種類がある。
驚いたことに、宮城県の県花ミヤギノハギは、野生個体がない園芸品種だそうだ。起源もはっきりしない。花粉ができず、種子もほとんどできないため、自力で繁殖することが出来ず、挿し木で増やすしかないそうだ。少なくとも宮城県の場合、そんな種がこれほど多く見られるというのも驚きである。また、よく似た表現に「宮城野の萩」というものがあるが、おそらくそれは歌枕「宮城野」と萩を結びつけた表現であって、萩の種類名としては野生種のツクシハギやヤマハギのことのようだ。ますますややこしい。
先生は、ご自身で作った標本も持参してくださった。プロが作った植物標本の美しさは格別である。乾燥したから色あせて魅力が減じるということもなく、台紙への固定も、貼付されたラベルの記述も、全てがプロの技を感じさせる。例によって、講演終了後は飲食を伴う懇親会となったのだが、汚損することを心配して、別スペースに展示したところ、参加者がそこに集まってしまって、飲食スペースが閑散としたほどであった。
今回は、1週間ほど前まで参加申し込みが少なく、地元の2紙(石巻かほく、石巻日々)もなかなか記事を出してくれなかったりしたので、少し低調な会になってしまうのではないかと心配していた。ところが、前々日くらいからバタバタと申し込みがあり、飛び入りなどもあったりして、ふたを開けてみれば第28回よりも多くの参加者があって盛会だった。
いや、人が集まれば「盛会」ということではない。内容あるお話があり、質問があり、参加者同士の交流があってこその盛会である。多分、昨日の会にはそんな要素が揃っていた。根本先生はお帰りになったが、一部の参加者と主催者は2次会に繰り出し、日付が変わったのを塩に散会となった。次回はいよいよ節目の「第30回」。
(補足)先生は、萩の分類の偉大なる先人として、植物学者A・K・シンドラー(1879~1964年)という人を紹介していた。その人が作った萩の分類リストを「シンドラーのリスト」と呼んでいるというのも面白かったが、そんな駄洒落の面白さを超えて、本当に偉大な学者だったんだな、と思わせられた。帰宅後、調べてみれば(英語版のWikipediaでやっと発見)、シンドラー(Anton Karl Schindler)はドイツ人である。ヨーロッパには萩がないはずなのに、どうして萩を研究対象として大きな仕事をしたのだろう?歯科医でもあったらしい。びっくり!!