生まれ変わった練習船

 この数日、ネットで、ロシアのウラジオストクと日本を結ぶ定期旅客船が運航を始めたというニュースを何回か見た。HTB北海道ニュースなど、出所はしっかりしている。なんでも、ボストークツアー社というロシアの旅行会社が動かしている船で、当初は石川県の七尾市を日本側の出入り口にしようとしていたが、市民の反発が強かったため、北海道の小樽に変更したという。
 私は、最初そのニュースを見た時、思わず心の中で「あっ、宮城丸だ!」と叫んだ。ペロンと真っ白に塗られたプレイオナと名付けられた船なのだが、形状がわが宮城県の高校練習船「宮城丸」にそっくりだったのだ。
 私が水産高校(宮水)にいた時活躍していた宮城丸(650t)は昨年引退し、今は新しい宮城丸(699t)が使われている。旧宮城丸がどうなったかは聞いていないが、もしかするとロシアに売られ、旅客船として第2の人生を送るようになったのかも知れない。
 私はあわてて旧宮城丸の写真を探し出し、ネットの映像を見ながら確認してみた。すると、確かによく似ているが少し違う。部分的な改造を施されることはあり得ることだが、改造できる場所と出来ない場所がある。どうも旧宮城丸ではないらしい。
 しかし、その形状は、間違いなく練習船である。全国の水産高校で乗船実習に使われている練習船は、漁船でありながら船室部分が大きい上、その多くは海洋水産システム協会という社団法人で設計されているため、どうしても形状が似通ってくる。独特のフォルムだ。
 私はこれまたガサガサと、宮水勤務時代に入手した海洋水産システム協会の『設計・支援船舶資料集』を書架から探し出して、ページをめくった。海友丸(福岡・長崎・山口共同運用、698t)や土佐海援丸(高知、486t)など、いくつか類似の形状の船が見つかったが、どれもこれも微妙に違う。
 ふと思い立って、ネット検索してみると、簡単に見つかった。なんとWikipediaに「プレイオナ(船)」という項目があって、2018年に売却された神奈川県立海洋科学高校の練習船「湘南丸」だと書かれている。646t。竣工は1999年。2013年3月刊の『設計・支援船舶資料集』は、今世紀に入ってから建造された船だけを対象にしているから、載せていないのだ。
 やっぱり練習船だ(予想的中)、という自己満足感もあったが、こうして船というのは、中古品として誰かの手に渡り、当初の目的とはまったく違う使われ方をするものなのだな、という感慨も抱いた。同時に、飾り気のない白一色で、あちこちにさびが浮いた姿に、少し哀れさも感じた。
 私は、ロシアの一般市民が来たからと言って、直ちに敵視する気はないけれど、なんとなく「そんなことやっている場合じゃないでしょ?」とは言いたくなる。もっとも、乗って来た観光客はわずか3人だったらしい。