MSCベリッシマ!!

 朝6時過ぎ、食事をしていたら、妻が「南から太陽!」と素っ頓狂な声を出した。南から太陽はあり得ない。何事かと思ったら、確かにほぼ真南の方、水平線近くに赤く光る塊が見える。しかし、すぐにそれは船と分かった。日の出直前の太陽に照らされ、赤く光って見えたのだ。
 それにしても異様な塊だ。ふと思い出した。世界最大級の豪華客船が石巻に寄港するというニュースを、数日前に地元紙で見たことがあったっけ・・・。水平線から現れたばかりで、まだ小さく、双眼鏡で見ないとそれが大型客船であるとは分からなかったので、近づいてくるまでにと、11月16日の地元紙「石巻かほく」を探して見てみると、船の名前は「MSCベリッシマ」。マルタ船籍の船らしいが、本当にびっくり仰天の巨大船だ。

総トン数171,598t(名古屋行き太平洋フェリーの10倍以上!!)、全長315m、19階建て、定員5,714人

 定員というのが乗客だけなのか、乗客乗員の合計なのか分からなかったので、船の運航会社のHPを見てみると、数字が違う。そこには、乗客定員5,568人、乗組員1,536人と書かれている。合計で、7,104人となる。先月末時点で、女川町の人口が5,926人だから、ほぼ全員が乗客として乗れる勘定だ。
 船はどんどん近づいてきて、肉眼でも巨大客船であると分かるようになってきた。見れば見るほど異様だ。巨大なマンションが船の上に乗っかっている感じだ。
 私は船が大好きだが、そんな豪華客船で旅行に行きたいとは思わない。それこそ島のような船が、漁船が追いつけないほどの高速で走り、中では自家発電の電気を無制限に使っているわけだから、どう考えても、めちゃくちゃな量の石油を消費しているはずだ。私なんかは罪悪感が強すぎて、とてもではないが船旅を楽しめない。貨物が主のフェリーに乗せてもらうのが、私にとって許される最大のぜいたくである。
 試しに、ネットで豪華客船の燃費を調べてみると、予想通りにすさまじい。MSCベリッシマの燃費は探せないが、例えば、既に引退した「ぱしふぃっくびいなす」(26,594t)だと1日当たり54t、「ディズニー・マジック」(85,000t)だと同250tの重油を消費するらしい。自動車流に燃費を表現すると、「4~6m/1リットル」だという。MSCベリッシマはディズニー・マジックの2倍のトン数だ。燃費が総トン数に完全に比例するわけではないだろうが、どう考えてもディズニー・マジックよりは多いだろう。すると、連日400tにも上る重油を燃やしているに違いない。7000人が同時に移動できることを考えると、考え方によっては自家用車よりも燃費がいいのだが、それでも、本当に必要な移動なら仕方がないかも知れない、というだけである。クルーズは「ただの遊び」だ。温暖化が切羽詰まったこの期に及んで、燃料消費が全然気にならない神経って羨ましいなぁ、と思う。
 数分間目を離した間に、MSCベリッシマが消えてしまったので、何が起こったのだろう?と思ったら、どうも部分的に海霧の立ちこめている海域があり、その中に入ってしまったようだった。やがてまたぼんやりと見え始めた。
 船は8:00に入港し、16:00に出港するという。船が着けば乗客が街に繰り出し、石巻は経済的に大きな恩恵を受けるのだろう。街の中の浮かれ立った大騒ぎを少し想像しながら、私はそれとは無縁な仕事のために家を出た。