ついに天文学!・・・記念すべきラボ第30回

 昨日は、記念すべき第30回の「ラボ」であった。第1回を開いたのが2016年7月22日だから(→その時の記事)、途中、コロナによる中断が2年半あったとはいえ、既に7年。しかも、ずっと2ヶ月に1度というすさまじいペースで開催してきたのだから驚く。当初は、招くに値する(もしくは、来てもらえる)講師がどれだけいるか見通しもなく、3年もやれば、その間に研究の蓄積もできるだろうから、最初の講師の戻ればいいさ、などと話をしていたのだが、結局、今までのところ講師の重複(2回目登場)というのは起こっていない。30人も登場していれば、いくら主催者が「この人なら」と思って招いた専門家とは言え、ある程度玉石混淆になるのは仕方がない。しかし、今、チラシの裏面に印刷してある履歴を見てみても、なかなかそうそうたるメンバーに来てもらっていると感心する。それでも、主催者2名の個人的つながりで、手弁当に近い形で来てもらっているわけだし、一体いつまで続くかなぁ、と思わないでもない。
 さて、記念すべき第30回にご登場は、新進気鋭の天文学者・林航平氏(仙台高専講師)。演題は「ダークマターって何もの? すばる望遠鏡でせまる物理学最大の謎」であった。
 高校時代、天文物理部に所属し、物理と地学で共通一次試験を受けて文学部に入ったという変わり種の私は、ラボにぜひ天文学、あるいは地球物理学の専門家を招きたいと思い続けていた。ところが、地元、石巻専修大学にその手の専門家がいないこともあって、これまで実現していなかった。某氏の紹介により、今回、ようやくそれが実現したというわけである。
 先生は、まだ36歳なのだが、東北大学で博士号を取得した際、総長賞を受賞すると、その後、東北大学東京大学北京大学の研究所、国立天文台などに籍を置き、ハーバード大学ケンブリッジ大学などでも学んだという恐るべき経歴を持つ。また、現在は、IPMU(東大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構)を中心とする研究チームの一員として、ハワイにあるすばる望遠鏡の5年間にもわたる優先的使用権を持っているという。一方、高校(一関一高)時代は、硬式野球部に所属して春の甲子園出場、大学(弘前大学)時代はボウリング部で、アベレージ220を出していたというスポーツマンでもある。人間的にもとても円満。びっくり!
 お話はきわめて明快。宇宙を構成するもののうち、ダークエネルギー(「ダーク」は、「暗い」ではなく「正体不明」の意味)が68.3%、ダークマターが26.8%、合計で約95%を占め、これらがなければ現在のような宇宙は生まれていないにもかかわらず、その名の通り、正体が分かっていない。先生の研究は、その中でもダークマターと呼ばれる物質の正体を突き止めることである。
 先生は、というより、ダークマターを追い求める天文学者は、質量において小から大まで90桁にわたって存在するとてつもない数のダークマター候補から、WIMPと言われる物質に目を付け、その検出に努めてきた。先生は、その検出方法を丁寧に説明する。一見、ダークマターとは何か?という本題からすれば、いささか余談に近い話のように見えるが、決してそんなことはない。狙っているWIMPの性質に基づいて、観測対象も観測方法も決まってくるからだ。しかし、長く厳しい努力の末、どうやらWIMPはダークマターではなさそうだ、ということになってしまった。
 そこで、日本が世界に誇る口径8mの高性能望遠鏡「すばる」に、新たに開発した「超広視野多天体分光器(PFS)」というもの(100億円!!Eテレ「コズミックフロントΩ」の「ダークマター」の回の最後に紹介されていた)を取り付け、まずはダークマターがWIMPと比べて質量の小さな物質(=観測している矮小星雲のダークマター分布が低密度)なのか、大きな物質(=同高密度)なのかという問題に決着を付けようとしているのだという。
 実は、演題に反して、すばる望遠鏡が登場してくるまでに、お話は予定の1時間を過ぎていた。私は心中「困ったな、ここからが本題なのに・・・」と多少焦っていた。ところが、PFSの運用が開始されるのは2025年である上、観測・分析の成果が明らかになるには、それから更に2~3年かかる、ということで、昨日のお話は、その後すぐに結びとなった。
 と書けば、いかにも尻切れトンボという感じだが、そうではない。むしろ今後の新しい展開へ向けて、夢のある結びだった、という感じがする。懇親の場も含めて、質問も多く寄せられたようだった。
 2次会参加者は、最近としては少ない6名だったが、これまた盛り上がり、日付が変わる直前にようやくお開きとなった。第30回を飾るにふさわしいラボだったと思う。