ドイツ音楽と小泉和裕

 昨日の夜、Eテレ「クラシック音楽館」で、九州交響楽団創立70周年を記念する東京での演奏会(3月20日、サントリー・ホール)録画を見た。指揮は小泉和裕、曲目はベートーヴェン交響曲第2番、R・シュトラウス交響詩英雄の生涯」。
 小泉和裕氏は、10年以上にわたって仙台フィルで首席客演指揮者を務めていた関係で、何度かライブに接する機会があった。特に、ブルックナーについては圧倒的な名演を、しかも、マイナーな初期の交響曲で残し、私としては日本を代表する「ブルックナー指揮者」として名声高い人である。
 おそらく、ブルックナーに限らず、極めて正統的なドイツ音楽の継承者なのだろう、と私は思っている。昨日の番組冒頭で放映されたインタビューでも、ドイツ音楽へのこだわりを語っていたし、だからこそ、創立70周年、九響音楽監督として最後の指揮台で、ベートーヴェンとR・シュトラウスを選んだとのことだった。ベートーヴェンがなぜ第2番かは分からないが、王道を行くプログラムであろう。
 演奏する姿を見ていても、彼のどこが指揮者としてすごいのかはよく分からないが、確かに、音楽は本当に素晴らしい。各パートを磨き上げた上で、それらをピースとしてきっちり組み立てていったという感じがする。それが、決して各パートがバラバラに聞こえるということではなく、ドイツ音楽の構造的な美を実に上手く表現している。まるで、バッハのフーガを聴くように、組み合わされた一つ一つのパートに、順番に集中力が引きつけられていく、そうして弛緩することなく一つの曲を聴いた時に、なんとも言えない充実感を感じる。どうもそんな聴き方をしていたようであり、そんな聴き方をさせる音楽作りであったようだ。
 もう少しで74歳。なぜ今回限りでで九響の音楽監督を引退するのかは知らない。指揮者としては、決して年を取り過ぎたということもないだろう。高関健氏が仙台フィルのトップにいることについては何の不満もないが、小泉氏にまた来て欲しい、できればそのブルックナーを聴かせて欲しい、という気持ちを、私は今でも強く持っている。
 ところで、番組では、演奏が始まる前に、会場に集まった人の声を少し拾っていた。その中に、九響の創立時にヴァイオリン奏者として在籍していて、現在98歳の老婆がいた。体は不自由で、息子さんと思しき人に車椅子を押してもらっての来場だったが、「冥土の土産」と言いつつ、耳は非常に確かな感じだった。70年前を知るヴァイオリン奏者・・・なんだかこれも感動的で、印象に残った。