非日常は楽しい


 例によって週末は、山岳部の諸君と山へ行っていた。めでたく1名の新入部員を迎えて「新歓山行」という訳である。

 5日くらい前の週間予報では、両日共にほぼ晴れということだったのに、予報が更新されるたびに悪い方へと変ってゆき、前日の予報で遂に「荒れ模様」とか「4月下旬としては異例の寒波が到来」とか言われるようになってしまった。

 名取川上流・二口温泉から土曜日の宿泊地である樋ノ沢へ歩き始めて1時間、突然、雪が降り始めた。雪はその後強弱を繰り返しながら、全体としては徐々に強くなり、16:20に樋ノ沢に着いた時には真っ白、そして翌朝目を覚ますと、積雪量は何と30㎝に近く、テントはつぶされそうになっていた。ちなみに樋ノ沢の標高はたったの700mである。

 私も、山に登るようになって30年にもなるが、4月の下旬に、これだけの降雪を見たのは初めてである。一緒に行ったOBの方々も驚いていた。もっと登れば雪は更に多いだろうし、新入生もいるし、必ずしも冬用の装備で来た訳ではないからと、南面白山に登って面白山高原に下りるという予定をキャンセルし、二口温泉へと退却した。

 南面白山へ登れなかった代わりに、実に貴重なものを見ることが出来た、と言うべきだろう。単に4月の大雪というのではない。 雪をかぶった新緑、新雪の上に散っている山桜の花びら、といったものがどれほど美しいか!

 滑って泥んこになり、沢に落ちて濡れ、雪に埋もれたテントで寒い夜を明かし、山頂にも立てなかった新入部員が何を言うか心配したが、下山後の反省会の時、笑顔で「楽しかった」と言っていた。そう、人間は非日常的な体験にはときめきを感じるものなのだ。めでたし、めでたし。