校外研修で学んだこと



 今回の東京研修で、私はいくつかの大学について交渉の任に当たったのだが、そちらが引率者を必要とせず、しかも私は科学技術とその実用化に関わるところを見てみたかったので、積極的に、もしくは強引に日建設計鹿島建設引率を希望した。後から聞いたところによれば、ここはOBが最も積極的に現役の訪問を歓迎してくれる所だとかで、多くの重要なポストにいらっしゃる方々が時間を割いて、あちらこちらの実験施設や現場へ連れて行ってくれ、それぞれの分野について説明をして下さった。あまり面白いのと、生徒が皆大人しいのとで、つい先頭に立って係の方に付いてまわり、ひたすら質問し、肝心の生徒が疎外されるような状況を作ってしまったのは、さすがにまずかったかなと、ほんの少し反省した(まぁ、生徒が悪いんだけど)。とにかく、最先端技術の世界というのは面白いのである。

 私は、先端技術ならではのすごさ、面白さに感心はしてみたが、一方、相手をして下さった専門家達の話に含まれる普遍性というものも、実に面白いと思った。少し語録的に書いておこう。

 【生徒Q】建築家になるに当たって大切なことは何ですか?

 【A1】強い好奇心を持つこと、次に、いろいろな分野の様々な勉強をすることです。

 【A2】例えば鹿島で建築デザイナーを採用する場合、東大、早慶東工大以外からはまず採用しません。基本的な学力、しっかりした勉強、或いはそのために努力する力というのは絶対に必要です。

 【A3】技術系の人達はすべて一級建築士の資格を持っています。資格がなければ仕事になりません。ただし、資格を持っているというのはスタートラインに立つための条件であって、資格があれば何か大きなことが出来るという訳ではありません。

 【平居Q】このような大きな仕事を、どの会社に発注するかというのは、どうやって決まるのですか?

 【A】受注の段階で全ての要素が決まっているということはあり得ません。だから、図面の内容や見積書ではなく、最も大切なのは人間と人間のコミュニケーション、つまり、発注者が私達と接して、この人なら任せてもいい、と思えるかどうかです。

 【生徒Q】仕事をしてゆく上で最も心掛けていることは何ですか?

 【A】人の信頼・期待を裏切らないことです。人間関係は何よりも大切です。・・・

 かくして私達は旅館に30分以上遅刻してしまった。私は、この校外研修という行事の実施について会議の場で反対した唯一の人間だったのだが、みんながこのような研修が出来るなら(←なら、です)、これは素晴らしい行事であると思った。