漁り火



 何ともぜいたくな話であるが、石巻の高台にある我が家からは、北上川の河口と太平洋が実によく見える。もっとも梅雨の間は湿度が高くぼやっと霞んでいて、どこが海かさえ分からないような日が多いのだが、先週はめずらしくクリヤーな日が多かった。そして金曜日は漁火がとても美しく見えていた。イカ釣り船であろうか?家に居る妻によれば、夕方5時に数十隻の漁船が一斉に出港し、よい漁場を求めて我先にと激しいレースをしながら南東へ向って波をけ立てて行くのが見えるそうだ。

 私が帰宅して夜、家の中からぼんやり見ていると、漁火は静かで美しい風情のあるものだが、少し想像を逞しくしてみると、我が家からは点にしか見えない明かりの下、激しい、壮絶とも言ってよいほどの漁が行われている。そして、漁をしている人達には、それぞれの家族が居て生活があり・・・・まるで一人の人間を見ているのと同じだな、などと考えてしまった。