御坂峠のおかみさん



(6月9日河北新報 外川ヤエ子氏訃報引用)

 河北新報以外では目にしなかったが、写真もないこんな小さな訃報に目が止まった。私も知らない人物であったが、見出しに気を引かれて目を通し、あぁ、あの人か、と思った。諸君も1年生の時「国語総合」の授業で読んだ太宰治富嶽百景』に出て来る御坂峠の茶店のおかみさんである。このことを知った瞬間、太宰などという、私から見ればひどく昔の人が書いた「小説」という現実離れをした世界が、突然、身近でリアルなものとして感じられるから不思議だ。そういえば、5月8日には、タイタニック号の沈没を体験した最後の生存者という人の訃報が流れ、同様の思いを抱いた。

 偉大な業績を残した人が亡くなった時の、粛然と襟を正したくなるような気分も、それはそれで感動的だが、平凡な庶民とも言うべき人の訃報を前に、こうして過去と現在とが結びつき、歴史に思いを馳せるのも悪くない。合掌。