入学式生徒宣誓秘話



 一高の簡素な入学式を見ていて思うこともいろいろあるが、ここでは、生徒代表の宣誓について裏話を一つ紹介しておこう。

 代表のK君を「指導」したのは一応私である。3月24日予備登校の際、彼には昨年度の宣誓文を渡し、「非常に形式的な儀式なので、全くこれと同じ文面でいいからね。ただし、日付と代表者名だけは変るので当然書き直してよ」と言った。

 入学式当日、「今日大丈夫?とにかくゆっくりゆっくり、はっきり読んでね」と声をかけたところ、「文章ちょっと変えたんですけどいいですか?」と言われ、意表を突かれた。念のため、どのように変えたのか確かめてみると、「三年後に共学化を迎えますが云々」の部分が書き加えられていた。

 彼は、出来るだけ無難に、楽に、「お勤め」を果たそうと思えば、そんなことをする必要はなかったのである。しかし、彼があえてそうしたのは、それを彼が与えられた仕事としてこなしたのだはなく、自分なりに考え、よりよいものを求めた結果であろう。私は感心した。

 奇しくも式の終了後、学年委員長K氏から「自分の言葉で語れる人間になれ」という注文(?)があった。「自分の言葉で語る」は「自分の頭で考える」と同義である(授業でやった言語能力=思考力を思い出せ)。入学式で、その注文に先立って、自分の言葉で語れる新入生の姿を見ることが出来たことは、私にとっても何とも明るいスタートだった。恐らくは誰も気付いていないK君のファインプレーである。