ある二人の女性の死



(10月3日朝日新聞 猿橋勝子氏、10月4日同 若桑みどり氏の訃報引用)

 先週の水曜日と木曜日、二日続けて、高名な二人の女性の死が報ぜられた。

 まずは猿橋氏。もちろん「猿橋賞」で有名。仙台でも、2年前に東北大学の数学科の教授が受賞して話題になった。たった30万円しか賞金の出ない学術賞が大変な権威を持っていることが、私には驚異だ。女性科学者だけが対象という特異性や、受賞者の多くがその後優れた業績を残したという選考の的確性もあるだろうが、やはり、この人物の生き方の厳しさとか、学問的業績への畏敬も少なからずあるような気がする。戦争の激しい時期に大学を出、戦後のどん底とも言える復興期に科学者としてのキャリアを重ねた。当時は、女性科学者に対する偏見も強かったと聞く。その中で、学問的成果を上げることがどれほど困難であったか。

 次は若桑氏。私が大学生の時、一週間にわたってこの人の集中講義に出たことがある。私が小学校〜大学で受けた全ての授業の中で、最も印象に残っているものである。特別な工夫があるわけではなく、毎日300分余り、早口でひたすら語り続けるだけの、正に「講義」であったが、夢中にさせられた。イタリアのルネサンスマニエリスムバロックについての話だったが、とにかく知的刺激に満ちていたし、彼女のほとばしるようなエネルギーにも圧倒された。それは受講していた数十人に共通する思いだっただろう。終わった時には、誰からともなく大きな拍手が起こった。訃報に接し、あんなエネルギーの塊のような人でも死ぬんだ、と間の抜けたことを、しかし真面目に思ってしまった。 合掌