美観の価値



 校舎の北側では、地下鉄工事が本格化している。私のいる部屋からはその様子がよく見えるので、時々ぼんやりと眺めていたりするのだが、最近特に気になるのは、「電線」の醜さである。工事に大量の電気を使うと見えて、大きな自家発電機を据え付けた上に、以前に数倍する太い電線が大量に増設されて、空を横切っている。これは一時的なものと思えば我慢できなくもないが、思うに、だいたい日本という国は街の美観に無頓着で、その鈍感さを象徴するのが「電線」だ。そんな思いが、刺激を受けて、耐え難いほどに強まってきた。

 写真で見る(実際に行っても同じだ=笑)ヨーロッパの街が、なぜあれほど美しいのかと言えば、それは歴史的建造物の古めかしい味わいや、整然とした都市計画による美しさもあるとは思うが、「電線」が空中に張り巡らされていないというのも、非常に重要だと思う。ヨーロッパの電線は、基本的に全て地下だ。

 敷設しやすく、メインテナンスも簡単で、安上がりなのは当然日本式であって、ヨーロッパの人々だってそんなことは百も承知のはずだ。にもかかわらず、なぜあえてそうしないのかと言えば、それはやはり、街の「美」の方がより重要な価値を持つ、「美」にはそれだけのコストを費やす値打ちがある、と考えているからだろう。私は欧米崇拝者では決してないが、懐が深いなあ、と畏敬を感じることは少なくない。私達にとって、豊かな生活とは何か・・・そんなことを考え込んでしまう。