人の立場と表現の自由



 航空幕僚長なる航空自衛隊のトップが、某企業の懸賞論文に応募して最優秀賞を獲得した。ところが、その内容が、太平洋戦争についての歴史認識を中心に、政府見解と異なる部分が多かったために問題となった。そうしたところ、今度は論文を応募したのが一人二人ではなく、100人にも近いことが明らかになって、社会的な批判が急速に大きくなってきた。発端となった某氏は、国会にも参考人として呼ばれることになったらしい。と、ここまでは高校生なら既に知っていて当然の話。

 私も最初、この件を知った時には非常に憤慨した。空自のトップの頭脳がこの程度のものかと情けなくもなったし、こういう人がトップに立てる組織とはどんな所かという疑問、しかもそれが自衛隊という武装集団であることは危険で恐ろしいことだとも思った。ところが、事が大きくなり、報道がヒートアップするにつれて、実はこれはなかなか難しい問題で、軽率にものは言えない、と思うようになった。

 というのも、問題は某氏の歴史認識そのものではなく、政府見解に反する意見を公にしたことらしい→政府の見解とて常に正しいとは限らない(特に歴史認識は真偽の見極めが難しい、もしくは不可能だ)→明らかに政府見解に問題がある場合でも、反論の公表は許されないのか?→民間人なら許されるが、公務員は許されないということがあるのか?→公務員でも偉い人は許されず、末端は影響力が小さいから許されるということもあり得るのか?→そういうことがあるとして、一体どこにラインは引かれるのか?・・・というような疑問が後から後から浮かんで来たからである。思えば、裁判官が「中立性への信頼」という理由で、社会活動を著しく制限されていることが時々問題になるのは有名なことだ。私達・教員だって、物言いには日々神経を使っている。公務と民間とを問わず、「立場上言えない(できない)」という言葉を耳にすることも多い。

 人それぞれに立場があり、問題の性質も多岐にわたる。しかし、公務員の個人的な意見表明を一切禁じてしまうことはあってはならないと思う。誰なら言える、何なら言えない、ということの明確な線引きを考えることは、相当レベルの高い憲法上の練習問題だ。脳を鍛えたい人は挑戦してみる価値のあるテーマである。キーワードは「表現の自由」「公務員の人権」「特別権力関係論」あたりだろうか?