泣き虫しょったんへの夢



(5月16日毎日新聞「脱サラ瀬川四段 C級2組に昇級」を引用)

 今日は訃報ではない。おととし、全国読書感想文コンクール高等学校の部で課題図書になった『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社=面白い!)が、この瀬川晶司という人の自伝だったので、ふと目に止まったのである。

 瀬川氏は1970年生まれ。なんと、おそらくは将棋などに縁のない人(=私も)でも名前くらいは知っているであろう天才・羽生善治と同年の生まれである(学年は瀬川が一つ上)。

 あまり詳しいことを書いている余裕はないが、この二人の人生を比べてみると面白い。羽生は1985年、弱冠15才でプロ棋士となって、記録的な快進撃を始め、1996年、26才の時に、将棋界の全タイトルを独占する(七冠)という偉業を達成しているが、実に同じ年、瀬川は四段になれないまま年齢制限の26才を迎え、プロになれないことが決定した。その後、様々な紆余曲折を経て、瀬川は例外として、正に奇跡的にプロになることができ(「脱サラ」という暢気な響きの形容は似つかわしくないと思う)、今回、上の記事にあるような事態になりはしたものの、同じプロとして、羽生と比較の対象になることなどない小さな存在である。

 しかし、そもそも「神童」という言葉もあり「大器晩成」という言葉もあるように、人間の成長の早さなんて全くバラバラ。早く成長したからといって威張る必要もなく、遅いからといって恥じる必要もない。実際、瀬川の自伝が評判になったように、瀬川の人生は羽生とは違う力を持ち、人の心を動かしているのである。

 瀬川が今後どこまでプロの世界で順位を上げるかは、私にとっても一つのロマンである。そして10年後でも、20年後でも、瀬川が一つでもタイトルをとることが出来れば(できれば直接羽生から)・・・と想像してはワクワクするのである。