槍ヶ岳のビール



 8月1〜6日、信州北アルプス槍ヶ岳へ行った。有名な山ではあるが、私は初めて。私は、人のごちゃごちゃいる所が、あまり好きではないので、山岳雑誌あたりでその盛況を見ては、敢て「敬して遠ざけ」(論語)ていたのである。今年は、山岳部生徒諸君の強い希望があり、彼らの日頃の活動状況がすこぶる良好だったこともあって、私も同意し、一高山岳部として久々の信州遠征となった。

 今夏は日本列島全体が天候不順で、好天は全く期待できず、憂鬱な気分で出発した。ところが、初日こそ雨だったものの、稜線に登る日から突然快晴となり、思いもかけないかんかん照りの山歩きとなった。槍ヶ岳からは、南に富士山、北に剣岳が見えるという状況。もちろん生徒も大喜びで、逆に日射しの強さに閉口しつつ、元気に燕岳まで歩き通し、ご機嫌で下山した。

 確かに、槍ヶ岳を中心として、人はごちゃごちゃと多かった(岩場だらけの足元危うげな所に高齢者が多いのにびっくり、韓国人、中国人団体の多さにもびっくり!!)が、なるほど、人が集まる場所には集まるなりの理由があるなぁ、と私もその風景には感動した。山岳部の引率は、趣味と実益を兼ねるにはほど遠く、たいていは天気と生徒の体調や忘れ物、携行品の不備についての心配ばかりしているというのが現実であるが、諸君の人生と同じ長さの、私の顧問生活の中で数少ない、生徒と共に楽しめた山行となった。

 ところで、山そのものとは別に、今回の合宿中の最大の驚きは、槍ヶ岳の頂上直下標高3100m近いところにある大きな山小屋(私達はテント泊)に自動販売機があり、よく冷えた(と思われる)ビールを、ロング缶1本750円で売っていたことだったかも知れない。私が自力で荷揚げしたら、1500円以下では売る気にならないような気がする(しかも冷やせない)。全ては、早朝、北アルプスを縦横に飛ぶヘリコプターのおかげである。

 大自然の中で、都会的安逸は求めすぎるべきではない、と私は思う。そして、それを両立させようというのがヘリコプターの利用だ。結局、「豊かで快適」というのは石油を燃やすということとイコールだ。高校のエアコンのみならず、どこを見ていても、二酸化炭素を削減しようなどという気持ちはそもそも存在しないのだ。私には、どうしてもそう見える。