天気図は夢の地図



 授業も模試もない週末、私は不幸にして(?)山岳部の諸君と山へ行っていた。もっとも、通常の山行ではなく、高体連登山専門部なる団体が主催するリーダー研修会で、テントではなく、少年自然の家という立派な(?)施設泊まりだったのが救いであった。土曜の夕方には雨も上がり、澄み切った空気の中で仙台市街地の夜景が本当に美しく、また、日曜は時折しぐれる生憎の天気だったとはいえ、僅かながら名残の紅葉が残った晩秋の秋山風情を楽しむことも出来た。

 ところで、土曜の午後は天気図講座であった。私は、一高生諸君が出席していた「初級」クラスの講義に付き合い、資料として配られた天気図用紙を前に、目新しい話もなく、テンポも悪い講義を、退屈だなぁと思いながらぼんやりと聞いていた。と、その時、私は思わぬ発見をして天気図用紙に目が釘付けになったのである。

 天気図用紙には、いわゆる極東領域の白地図に近い地図が描かれていて、主な川と国境線が書かれ、そこに気象データを記入すべき都市が○で、その他若干の都市が • で示されている。ところが、朝鮮半島の真ん中に国境(38度停戦ライン)が書かれておらず、ソウルは○だが、ピョンヤンは○も • もなく、従って地名も書かれていない。どうして今まで、私はこのことに気が付かなかったのだろう。それは、見れば見るほど不思議な光景であった。朝鮮半島の南北統一が実現した未来の夢の地図を見ているようだ(もっとも、ピョンヤンが無いことで、南が北を併合する形での統一が想定されているとすれば、それはあんまりフェアでないようにも思うが、ものが「天気図」だけに、それは穿ちすぎた見方と言うべきだろう)。

 もうすっかり講義から離れてしまった私の心は、朝鮮半島を巡って空想の世界に入っていった。思えば、先週の月曜日は、ベルリンの壁崩壊20周年であった。