幸せは人それぞれ?・・・堀多恵子の死



(4月18日、各紙に堀多恵子氏の訃報)

 小さな訃報である。『風立ちぬ』の作者・堀辰雄の妻が亡くなった。96歳。堀辰雄という作家、或いはその作品自体が、「古典」として生き残れると私は思っていないが、なぜか一時期興味を持ったことがあった。筑摩書房刊の高価な『堀辰雄全集』も書架にある。

 堀辰雄を読んでいた時期、妻の多恵子さんという人を不思議な人だと思っていた。九歳違いで、既に肺結核を病んでいた堀と結婚し、15年間の夫婦生活の半分以上を、病床の堀を看病するために生きた。堀が死んで、既に50年以上経つ。作品を通して、堀の崇拝者となっていたわけでもないようなのに、なぜこの人は堀と結婚したのだろう?堀と暮らしていた当時は、子供もなく、国内旅行は多少機会があったものの、軽井沢近くの山中(?)に住んで、都会的な楽しみもなかった。一体、何を喜びとして生きていたのだろう?命長くはなさそうな堀と共にいて、将来に向けてどのような希望を持っていたのだろう?(堀の死後、再婚はしなかったが、喪主が「養女の夫」となっているので、養子を得たようである。)

 人間にとって幸せとは何だろう?昨日の日曜日、訃報を前に(まさか、まだご存命だったとは知らなかった)、その著書『来し方の記・辰雄の思い出』(1985年、花曜社)にパラパラと目を通しながら、私はしみじみと、そんな平凡な問いに思いを致していた。

合掌