正しい暑さ対策とは・・・



 わざわざ言うまでもなく、毎日暑い。もっとも、私としては、今年は梅雨も潔かったし、夏らしくていいなぁ、と思っている。不愉快ではない。

 思うことを二つ書いておこう。

 ひとつ、連日「熱中症」という言葉を10回以上耳にする。温暖化なのかどうか知らないが、確かに、気温は上がり傾向だろう。しかし、私の少年時代は、エアコンがないどころか、部活動の時は、夏の炎天下でも、「疲れるから水を飲むな」と先輩か先生に怒鳴られながら、口の中をパサパサにして走り回っていた。にもかかわらず、「熱中症で死んだ」とか、「危ない」などという話はほとんど聞いた記憶がない。

 今は何かにつけてマスコミが騒ぎすぎるということもあるだろう。しかしながら、基本的には、これは人間の「退化」を意味するのではないだろうか?各家庭や職場はもちろんのこと、学校でさえも私立を中心にエアコンが普及してきたことによって、人間は暑さに耐えることをしなくなり、ひ弱になって、その結果、文明の利器に守られていない場面に出くわすと、すぐに「熱中症」という形でその弱さを露呈する。マスコミが騒ぐことで、予防的措置を過剰に講ずるようになると、ますますひ弱になる、という絵に描いたような悪循環だ。これは意識的に、どこかで止めなければ、と思う。しかし、やたら責任追及のうるさい昨今、公が率先して暑さ対策を放棄するわけにはいかない。各自が自らの選択で、ひ弱への道を絶つしかないのだ。

 ふたつめ、我が家には涼を得る器具というのが、小さな扇風機一つしかない。もちろんエアコンなんてあるわけがない。所詮、宮城県石巻だ、と言ってしまえばその通りだが、石巻だってエアコンのない家はおそらく少数派だ。

 不思議である。巨大なエアコンを買えば「エコポイント」なるプレゼントがあるのに、エアコンを持たない、つまりは模範的エコ生活の我が家には、何のプレゼントもないのである。我が家は、扇風機一台で500円の罰金、エアコンを持っている家には1台につき30000円の罰金、というなら理解できるのだが・・・。

 まあ、本当は不思議でも何でもない。現在、政府が音頭を取ってやっている多くのエコ政策、企業のエコ対策と宣伝は、その99%までが本当にエコなのではなく、エコな気分に浸るための策であることなど、真面目に考えれば火を見るよりも明らかなことだからだ。

 話はいささか横道にそれる。今日の『朝日新聞』に、中央環境審議会の廃棄物・リサイクル部会長・田中勝なる人物に対するインタビュー記事が載っていた。見出し(タイトル?)は「プラスチックごみは、もっと燃やせ」である。田中氏によれば、プラスチックのリサイクルには膨大なコスト(=エネルギー)がかかるのだから、かえって燃料資源として燃やして、その熱の有効利用を考えた方がよい、ということだ。私にとっては意外でも何でもない。冷静に考えれば正しい、むしろ当然の意見である。

 我が石巻市は賢明にして、プラスチックごみの分別というのをやっていない。プラスチックを分別すると、火力が下がり、可燃ゴミ(とは言っても、生ゴミなんてそのまま燃えるわけがない)を燃やすために加えるべき重油が増える、という説明だったと記憶する。 我が妻は、石巻市がプラスチックを分別しないのはケシカランと言って、わざわざそれを分別し、仙台の実家に持っていって捨てている。私は以前から、バカじゃなかろうか、と言って妻に逆らい、プラスチックを普通の可燃ゴミの袋に放り込んでいた。プラスチックに魔法の粉でも振りかければ、それが見る見る石油に戻る、などということがあるならともかく、そんな魔法が無い以上、リサイクルは更なるエネルギーの消費を生むなどというのは、典型的「文系」人間の私でも、簡単に想像の付くことだ(ちなみに妻は「化学」の教諭である)。

 更に、私が恐ろしいと思うのは、分別してリサイクルに出すと、その人は、ゴミを出している(=環境に負荷を掛けている)という罪悪感を持たなくなる、ということである(「捨てればゴミ、分ければ資源」などという言葉は、そのような感覚を生じさせるという点について害悪甚だしいものがある。)。それなら、いかにももったいないゴミの出し方をして、その時その時、罪の意識でも感じている方が、よほど環境に優しい生活をするようになるに違いない。

 話を元に戻す。大きなエアコンに、1万何千ポイントとかいうエコポイントが付けば、それを買う人はいかにも自分が環境負荷の少ない選択をして、ほめられているような気分になる、少なくとも罪悪感は感じなくなってしまうだろう。それがいかに大きな思い違いであることか。エコな気分に浸るだけのための様々な方法を実施したところには、更なる地球の温暖化しかない。自己犠牲を払うことなく問題が解決する、などという甘い幻想を捨て、腹をくくって豊かさを犠牲にすることでしか人類が生き延びる道はない、と私は思っている。政府はエコポイントなどという欺瞞はやめて、エアコンに膨大な税金を掛けるか禁止し、人々は暑さに苦しみ、その中で真剣に温暖化に思いを巡らせ、熱中症になりにくい強い体を作っていくのが、正しい暑さ対策だ。