女戦士と別れる



 さもない文庫本を2冊、地元の書店に注文して、取り寄せた。こういうことをしたのは久しぶりである。新しい本を買う時には、仙台の大規模書店に行くか、AMAZONなるネット書店で取り寄せることが多かった。

 ところが、最近ふと考えたのである。確かに、購入対象が具体的に決まっている場合、ネット書店は非常に便利だ。しかし、各個人がAMAZONを始めとするごく少数のネット書店と直接結び付いてしまえば、世の中の書店というのは、立ち読みのために必要なだけであって、役割を失ってしまう。当然、立ち読みの場などいくら提供してももうけにはならないから、書店は倒産するしかないであろう。本の価格は強制的に決められているので、ごく僅かなネット書店だけが生き残ったとしても、消費者の足もとを見る形で本の値段が上昇したりはしない。だとすれば、それでもマイナスはないだろう。

 いや、三つの問題がある。一つは、包装が過剰な上に配送のために走り回るトラックが増えるという環境上の問題である。もう一つは、おそらくは大半が自動化されたネット書店の発送システムの中で、雇用が守られないという問題である。そして最後は、ネット書店の繁盛で町の書店が無くなることは、必ずしも自分が必要としていない多くの本を目の当たりにすることで、何かしらのインスピレーションを得たり、知的好奇心を拡張していく場を失うことになるということである。ネット書店と一般の書店の関係は、電子辞書と紙の辞書との関係によく似ていて、欲しいものを素早く手に入れることにおいてはネット書店は便利であるが、オマケ的な世界の拡大と情操の陶冶は本の現物が沢山並んでいる書店においてこそ可能なように思う。

 「便利」は素晴らしい。しかし、世の中の様々な行為においては、「小さな利益が目前に、大きな不利益が将来に」という恐るべき法則が存在することを常に肝に銘じていなければならない。ネット書店或いは通信販売に頼ることは、極端な富の集中、雇用の喪失と、大きな環境上のダメージを将来にもたらす。私は、少なくとも急を要さない新本の購入については、ネット書店から足を洗うことに決めたのである。