「激励」よりも「ビジョン」を!!・・・水産高校の新学期



 まったくドタバタの一週間であった。通学バスは市内の混雑のため遅延が常態化していて、毎日生徒はぞろぞろ遅れて来るし、いざ授業を始めようとしてみたところ、調理室にガス管が通っていないとか、コンピューター室にコンセントが4カ所しかないとか、いろいろ施設上の重要問題が発見されるし、未だ出港日の決まらない航海類型の遠洋航海実習については、福島原発の事故により、ホノルル入港のためには放射能検査の実施が義務づけられるようになったという連絡が入り、経費の問題もあって、通常の予定通りに実習をすべきかどうかという話になるし・・・。一方、それだけに、世間の注目は集めているらしく、NHKが連日カメラを持ち込んでいると思っていたら、水曜日の「クローズアップ現代」で取り上げられ、木曜日には高木文部科学大臣が「激励」及び「視察」として来校したりもした。来週は、『産経新聞』と『中日新聞』が来ることになっている。被災地はマスコミ・要人対応もなかなか大変だ。

 面白いので書いておこう。文部科学大臣の来訪については、先週知らされていたが、その時の話では、滞在時間30分、宮水生全員に激励のため話をするということであった。大臣が30分の時間を取るというのは大変なことだという想像は付くので、別に「偉い」と思ったわけではないが、驚いてはいた。ところが、その後、話はどんどん縮小し、結局、滞在時間は10分余り、職員室と某クラスに立ち入って、若干のお話(声がけ)をしたに過ぎなかった。私は、氏が車から降りるのを、好奇心に駆られて遠くからちらりと見ただけである。誠実な話しぶりだったと好印象を得た人もそこそこいたようだが、あれで何が分かるのだろう、何しに来たのだろうと首をかしげる人も多かった。

 この大臣の宮水来訪について、昨日の『河北新報』に、小さな記事が載っていた。それには、「宮城水産の生徒が通う石巻北高では「力いっぱい支援する」と激励。」とあるだけである。県立高校に対する文部科学省による力いっぱいの「支援」とは何だろう?また、同じ記事には、取材に対する大臣のコメントとして、「就学のための経済援助や教職員の確保、仮設校舎の建設にしっかり取り組む」とある。必ずしも宮水を意識したコメントかどうか分からないが、そもそも文部科学省が県立学校に自ら手を出せるわけでもないような気がする上に、私達が求めているものは、もっと立派な仮設校舎ではなく、宮水が最終的にどこでどのように新しいスタートを切れるのか、というはっきりした将来的ビジョンなのである。それが明確であれば、今の仮校舎でも耐え忍べるし、明確でなければ、いくら立派な仮校舎が出来ても、みんなの意識を維持することは出来ないのである。

 いささか矛盾するようだが、今日発行の学級通信もどきに、以下のようなことを書いた。


「ようやく最初の一週間が終わろうとしている。昨日まで午前授業で、比較的ゆとりのある生活だったはずなのに、とても長く感じられ、疲れ果てたという人も多いのではないか?慣れない生活とはそんなものである。

 ところで、クラスでのHRといい、授業のオリエンテーションといい、私は、事務手続き以外で、諸君に対して「震災」云々ということを一切言わなかった。理由ははっきりしている。私は、震災によって多くの人が大変な生活をしていることも、仮設校舎で学習環境が悪いということも、あまり気になっていないのである。「国語」などという、黒板と机、椅子だけあれば済む教科を担当している、ということもあるかもしれないが、重要なのは、伸びる人(自分を伸ばせる人)というのは、どんな劣悪な環境に在っても必ず伸びるし、伸びない人というのは、やはりどんなに優れた環境にあっても、うまくいかない理由を自分以外のところに見つけ出しては不平不満を言うばかりで、結局伸びないものだ、と分かっているからである。大切なのは、自分を伸ばしたい、何かを身に付けたいという意欲と、自分自身としっかり向き合うことだ。うまくいかない原因を、いくら環境に求めてみても、一時的な安心が得られるだけで、将来へ向けては何のメリットもない。気にしても仕方のないことは、気にしないに限るのである。」