オバマ氏の発言を熱烈に歓迎する



 テレビも新聞も震災関係のニュースで埋め尽くされ、それとは関係ないようなニュースを探し出すようにして読む日々が続いていた中、オバマ米大統領が、イスラエルに対して第3次中東戦争以前の支配領域まで撤退するよう求めたという昨日のニュースは新鮮であった。

 以前にも少し触れたことがある通り(2009年1月8日の記事)、近年のイスラエルのアラブ人に対する強硬姿勢は、まったく異常なレベルである。最近は、リビアなら積極的に介入する国際社会が、なぜそれを放置するのかということへの憤りもあって、ますまその思いがつのっていた。

 オバマ氏の発言は、むしろ当然のことである。いや、本当はそれでも当然以下と言うべきだろう。第3次中東戦争以前に戻すということは、基本的に1947年の国連によるパレスチナ分割案に従うということだが、イスラエルの現在の実質的な支配領域に比べると、極端なまでにその領域を縮小することになるとは言え、もともと国連案は、問題の地域で3分の1の人口しかなかったイスラエルユダヤ人)が、3分の2近い土地を得るという不公平なものだったからである。それでも、オバマ氏の昨日の発言がイスラエルの強い反発を買い、またもめ事のネタになりかねないというのだから、問題は非常に深刻である。

 いささか余談に及ぶ。私は、1984年の1月〜2月に、イスラエル北部にあるアヤレット・ハシャハールというキブツ(集団農場)で生活したことがある。青年層を多く兵役に就ける必要のあるイスラエルは、キブツに限り、「ボランティア」という名目で外国人労働力を受け入れていた(いる)のである。キブツの中にはボランティアハウスという合宿所のようなものがあり、40名余りの外国人が生活していた。3食昼寝付きで、中央食堂の皿洗いとか、アボガトの枝切り、鶏小屋の掃除、直営ゲストハウスのメインテナンスの助手といった仕事をしていた。「ボランティア」という名前の通り、給料は出ないが、月に2通のエアログラムと、キブツ内の売店でだけ使える3000シェッケルのクーポン券が支給された。ボランティアハウスには図書室があり、近隣のキブツとの間で数ヶ月に一度本の入れ替えをしているということだった。

 ある日、私は図書室の本の中に一冊の日本語の本を見つけ、手に取った。広河隆一氏の『パレスチナ 幻の国境』(草思社)という本である。ショックだった。ノンポリだった私は、この時、この本によって初めて「パレスチナ問題」と出会ったのである。地図を見たり、散歩しながら状況を観察することで、私が生活していたアヤレット・ハシャハールも、少なくとも二つのアラブ人の村を破壊することによって建設されたことを知った。私が早々にキブツを出た理由として、そのことによる居心地の悪さがあったのは確かである。帰国後、私は手当たり次第にユダヤ人問題、パレスチナ問題に関する本を読み、ユダヤ人の歴史とこの地域に起こっていることが、人間(←ユダヤ人だけではない)という生き物のマイナスの側面の集大成とも言うべきものであることを知った。

 アメリカの経済においてユダヤ人の影響力は今なお強力らしいし、その延長線上で、政治に対するユダヤ人ロビーの存在の大きさは計り知れないと聞く。全ての報道で言われている通り、いくらアメリカ大統領の発言とは言っても、それによってパレスチナの勢力分布が簡単に変化したりするわけがない。ノーベル平和賞の原因となった核軍縮問題だって、その後どれだけの具体的進展があったのかというと、限りなくゼロに等しいのではあるまいか。となると、オバマという大統領は、政治的パフォーマンスとして大言壮語を好む人だという評価を受けるのかも知れない。

 彼の本心が、ウサマ・ビンラディンを殺したことに対するテロ組織の反発を和らげるためなのか、アラブ人の正当な人権に対する高邁な意識なのかは分からない。しかし、理由が何であれ、それでもあえて私は評価すべきだと思う。そして、わらをも掴む思いで、あの悲惨なパレスチナ問題に少しでも動きの現れることを期待せずにはいられない。パレスチナのアラブ人の状況に比べれば、東日本大震災などゼロに等しい些細な事にさえ見える。