権利の濫用という問題



 高速道路の「週末1000円」という制度が廃止となり、替わって「被災証明書でタダ」という新制度がスタートした。

 既に有名な話であるが、6月17日に岩手県内陸部の矢巾町で、「停電」を理由とした被災証明書の発行が始まり、21日には八戸市が、同じく「停電」を理由として、全家庭に被災証明書を送付することにした。「停電」が理由で被災証明書が発行されるなら、全家庭が対象になるに違いなく、だとすれば、いちいち手続きで市民と役所がお互いに面倒な思いをするよりも、全家庭に送ってしまった方がよいということになるのは当然だ。

 いずれにしても、こういうのを「権利の濫用」と言うのであろう。矢巾町は「町民の利益を一番に考えた」と説明している(こういうところに、「哲学」が出来ないという日本人の弱点がよく表れている)が、考えるべきは町民の利益ではなく、制度の精神である。もっとも、「被災証明書でタダ」という制度に高邁な精神があるのかどうかは怪しいが、それでも、「停電」で被災証明書が出ることは想定しておらず、あくまでも高速料金に比較して非常に大きいと思われる被害に配慮した制度であることは間違いないだろう。

 権利を行使しなければ、やがて権利は消滅する。同様に、権利を濫用した場合は、権利を剥奪されて然るべきだ。政府は「そんなことならや〜めた」と開き直ればよいのである。権利は節度を持って適切に行使されるべきものであり、権利の濫用は権利の喪失を招くことを国民に教えるのも大切なことである。


(6月26日補記)うっかりしていた。二つ「あっぱれ!」な話を・・・

6月23日付『石巻かほく』:石巻東松島・女川は「停電」では被災証明書を発行しない。

6月24日付『河北新報』:青森県内の二つの有料道路(「みちのく道路」「青森空港有料道路」)で被災証明書を使った無料通行を認めない方針を発表。県の談話「本来は家屋が損壊するなどした被災者の生活再建を支援するための事業。停電被害だけで証明書を発行する自治体が増えれば、市町村間の不公平感が広がり、県の費用負担も過大になる。」

そもそも、被災証明書交付の条件として、被災証明書がどのような使用を想定されていたかにもよるが、被害額50万円以上とか決めればよかったのだと今更思う。