夜の音楽



 もう2週間くらいになるかも知れない。同僚A先生が、「僕このECMっていうレーベル好きなんですけど、平居先生、聴いてみませんか?」と言って、1枚のCDを貸してくれた。見れば、『The Melody at night, with you.』というキース・ジャレットのソロアルバムである。内心、「なんだ、キースか」と思いつつ、家に帰って聴いてみると、これが思いの外にいい。家にあった同じくECMの、同じくキースによるライブ(有名なブレーメンローザンヌのコンサート)のCDをA先生に貸して時間稼ぎをしつつ、幾晩かにわたり、繰り返して聴くことになってしまった。

 アルバムのタイトルが云々というのではなく、以前から思っていることだが、ジャズというのは、本当に「夜」の似合う音楽である。ちびちびと酒(本当はウイスキーが似合うんだろうな。しかし、私は苦手なので赤ワインか日本酒)を飲みながら、家人の寝静まった夜中に、さほど大きくない音量で聴くのにこれほどいい音楽はない。

 私は、ジャズに関しては、マイルス・デイビスに代表されるモダンジャズの黄金期(1950年前後、せいぜい1980年)で頭が止まっており、その後、時代の流れに全く付いて行けていない。だから、ジャズに関する蘊蓄などたかが知れたものなのだが、そんな私のお気に入りは、ミルト・ジャクソンである。アルバムで言えば、その名もズバリ『Milt Jackson Quartet』(OJCCD-001-2)、曲だと「Bags' Groove」(『Miles Davis and modern jazz giants Bags' groove』(OJCCD-245-2)というアルバムに二つのテークが収録されている)というあたりを昔から愛聴してきた。

 これとて、ミルト・ジャクソンの演奏するヴァイブラフォンという楽器が、その構造上、常に音にビブラートがかかり、それが夜の闇にろうそくの炎が揺らいでいるような印象を与えるから好きだ、ということのような気がする。つまり、ジャズは、私の中では、どうしても「夜」と切り離せないのである。

 「なんだキースか」という最初の言葉によく表れる通り、キース・ジャレットなぞ私の好きなアーチストではない。しかし、今回A先生が貸してくれたアルバムは、静けさの中に透明な旋律がほどよく漂っていて、久しぶりに、「ジャズ=夜の音楽」ということを実感させてくれ、私をいい気分にさせてくれた。珍しいほどタイトル通りのアルバムである。

 時折、ジャズを聴きながら、ひっそりと静かな夜を過ごすのもいい。あ、早くA先生にCD返さなくちゃ・・・。