「大切にしたい会社」の哲学



 4月10日付け学級通信の裏面に、3月31日付け『朝日新聞 be(土曜版)』の「フロントランナー」を引用した話は、既に書いた。恥ずかしながら、私はこの記事を読むまで、坂本光司という人の名前も、『日本でいちばん大切にしたい会社』という本も知らなかった。社員とその家族を最も大切にする会社こそが、不況の中でも好調を維持できている、業績や利益を軸に経営を考えるとおかしくなる、という「人本主義」の考え方に、私は大いに共感するものを感じたので、早速、『日本で一番大切にしたい会社2』(あさ出版、1は未見)と『ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社』(ダイヤモンド社)を読んでみた。私としては、後者の方が面白かったが、どちらの本に紹介されている会社も、本当に素晴らしいと思った。

 例えば、年に3億円もの売り上げを出している「小ざき」という小さな羊羹屋がある。「小ざき」はなぜ繁盛するのか?その原因について、坂本氏は、「(売れる原因は)つくっている商品が「本物」だからです。景気や流行を追いかけずに、本質を追いかけているからこそ、長期にわたって繁栄しているのです。」と分析する。

 手前味噌であるが、「小ざき」に代表される、坂本氏が紹介する会社の経営のあり方は全て、私が日頃よく口にする、「理想(本質)は長く現実は短い」(知らない人は本ブログ2009年3月3日記事参照)という言葉がいかに正しいか、を証明してくれている存在である。

 また、「未来工業」という会社を取り上げ、次のように指摘する。

 「私はたくさんの会社を訪問しましたが、一つ言えることは、儲かっていない会社は例外なく本社が大きいということです。

 総務・人事・経理の社員が多すぎるのです。

 そういった部署に社員が多いとどうなるか?

 本社の社員は、社員が多すぎると思わせないように、「管理」という仕事を考え出します。

 管理しようと、本社がいろいろと口出しをしたり、手を出しすぎたりすると、現場の思考能力が停止します。

 すると社員は自発的にものを考えなくなり、モチベーションが下がって、結果、儲からなくなるのです。

 未来工業は「ホウレンソウ禁止、自分で考えろ」ですから、管理の対極にあると言えます。

 二流、三流の会社は本社が大きく、一流の会社は本社が小さいというのが、私の調査結果です。」

 私は、坂本氏と違って、「本社が大きくなるから「管理」という仕事を作る」のではなく、「管理」を真面目にやろうとするから本社が大きくなるのだと思うが、どちらであっても最終的な構造は同じである。言うまでもない。現在の学校を含む、行政機関の多く(全て?)が、明らかに、坂本氏の言う「二流、三流」の「儲からない」会社のパターンである。

 最近、学校にも民間の手法を取り入れるべきだとかで、民間出身の校長なども存在する。しかし、取り入れ方によって吉にも凶にもなるものなのだな、と思う。残念ながら、現在のやり方は、会社毎の質的な違いをあまり真面目に考えず、「公」に対する「民」を一括して「善」と考えているように思える。数少ない坂本流の優良企業を探し出そうとせず、学校のあり方や人事に強大な権力を振るう行政機関が、「二流、三流」の「儲からない」会社のパターンに陥っていることの反映として、「社員とその家族」ではなく「業績や利益」を経営の軸に考える、「二流、三流」の会社の手法に目を奪われ、それを取り入れようとしているのではないか?

 現在、坂本氏の著書が大量に売れ、講演に引っ張りだこだというのは、人々が坂本氏の主張に共感していることの表れとして明るい話である。その価値観が大きな潮流となり、官公庁・政府にも当てはまることだと人々が気付き、応用されてくるようだと、世の中は更に明るい。