外山雄三『管弦楽のためのラプソディー』の謎・続



 5月2日に、外山雄三氏の『管弦楽のためのラプソディー』という曲についての記事を書いたが、その翌日、NAXOS『日本作曲家選輯』(沼尻竜典指揮、東京都交響楽団)というCDを手に入れた。2000年録音なので、もちろん旧版のはずである。一聴して、岩城宏之の演奏とあまりにも違うので当惑してしまった。

 例えば、最後の「急」の冒頭に、おそらくはオーケストラメンバー全員によると思われる「ハッ!」という掛け声が入っている。これは改訂版の楽譜にも、岩城の録音にもない。ということは、初版にあった「ハッ!」を岩城がカットしたか、なかったのに沼尻が独自に加えたかどちらかである。岩城がこの曲の初演者であることを考えると、沼尻が加えた可能性が高いだろう。もちろん、作曲者がご存命で現役なのだから、断り無くということはないに違いない。大太鼓(和太鼓)の扱いも、改訂稿とも岩城とも違う。

 録音が新しいためか、各パートの音が岩城盤に比べると明瞭に聞き分けられる。その結果、2001年の改訂が、先日書いたようなトランペットやホルン、フルートの問題でないこともはっきりした。改訂の内容はまったく分からない、と言うしかない。これで、この曲を巡る事態は益々複雑となる。

 版の問題が有名なブルックナーだけではなく、ベートーベンにだって楽譜の異同についての問題は存在するし、演奏者が解釈のレベルを超えて勝手に手を加えることも、少なくとも昔は、さほど珍しいとは言えなかった。しかし、今日、作曲者がご存命で、曲の歴史も浅いのに、作曲者自身を含めた演奏家が、演奏の場でアレンジを加えて事態を複雑にしているというのは、果たしてよくあることなのかどうか?

 「作品」というものの実像は捉えがたい。