COSECHA・・・ワインはチリ!



 昨日ワインについて書いたついでに、もうひとつ触れておこう。

 私が、初めてワインというのが美味いものだと気づいたのは、1988年に南米・チリを旅行していた時である。一番北の端、アリカという町で日本人旅行者からチリワインがいかに美味いかを聞かされ、市場の食堂で魚料理を食べながらワインを飲み、その魅力に取り憑かれてしまった。以後、1リットルの紙パック入りワイン(100円くらい)を常に持ち歩き、「Jugo de Uva(ブドウのジュース)」などと勝手に呼んでは、水代わりに飲んでいた。一番のお気に入りは、「Gato negro」(これは瓶入り)と「Don Silvestori」だったか「Don Simon」だったかと記憶する。場末の食堂のハウスワインも美味かったし、何しろ海産物の豊かで安い国なので、市場でアサリやハマグリをキロ単位で買っては、宿泊先の厨房のオーブンを借り、白ワインをかけながら蒸し焼きにして食べたりしていた。

 日本に帰っても、ワインを買うとなればチリ産だ、という意識がずっと消えない。しかし、これは、上のようないきさつのためばかりでもない。あれこれと試してはみるのだが、値段と質との関係で言って、最後にはやっぱりチリだ、ということになってしまうのである。

 最初のうちは、ワインは1本1000〜2000円のものが分相応、程よいレベルかな?などと思ったりしていたが、よく考えてみると、750mlで1000円ということは、1升だと2500円ほどになるわけで、これが日本酒とほぼ同じ値段に相当する。2000円などというのは、1升の日本酒と比べると似たような値段だが、実はとんでもなく高価なのだということに気付いてから、1000円以下のワインを探すようになり、するとますますチリ産のコストパフォーマンスの良さが際立ってくる、ということになった。500円や600円のワインというのは、けちくさい感じもするが、どうして、2000円くらいのフランスやイタリア産ワインと比べて劣っているということはない。

 人間の味覚というのは不思議なもので、「客観的な」味覚というのは存在せず、幼い頃に食べたものなどは、年を取ってからますます「美味い」と感じられるらしい。だが、できるだけそれを否定し、「客観的に」価値を見極めようと努めてみても、やはりどうしてもチリ産が、銘柄による差はあるにしても、平均して最もポイントが高いと思われた。ちなみに、私の個人的な判定によれば、次点は南アフリカである。

 「Gato negro」が、その名の通りのラベル(Gato negroとは黒猫の意味)も含めて忘れられなかった私は、帰国後、ずいぶん探したのだが、20年あまり前に女川で1本見つけたきり、その後は、なかなか手に入らなかった。ところが、これが最近量販店で簡単に手に入る。ラベルはぐっとモダンでおしゃれなものに変わった。

 ただ、円高のおかげや、チリワインの価値が少しずつ認められてきた結果として、今やおびただしい種類のチリ産ワインが手に入るので、見たことのない銘柄を見つけるたびに、買って来ては試してみるようになった。ほとんどは1本500円前後のものばかりである。その結果、最近、これが結論だな、と思っているのは「COSECHA」というワインである。首都サンティアゴの少し南、マイポ川沿いにあるTARAPACAという会社が醸造元らしい。我が家の近くの生協で、2本980円で売っている。よほど特別な時でなければ、これで十分。

 深夜、本を読みながら、チーズを囓り囓り、こんなワインを飲んでいると、なんともいい気分になる。チリという国は、物価が安い上、食、人、自然の風景のどれもが素晴らしく、私がかつて旅行した国の中のベストなのであるが、そんなチリの思い出が蘇っても来る。