これは好論!・・・安倍政権の教育改革について



 少し前の話になるが、3月28日付け『毎日新聞』の「これが言いたい」という欄に、日本大学教授・広田照幸氏の「教育者の主体性を奪うな〜画一化の懸念が大きい安倍内閣の教育改革」という文章が載った。現場離れをし、かゆい所に手が届かない、いや、むしろ今の悪を加速させるとの危惧を持ちながら読むことが多い学者の文章にあって、これは非常に当を得たいい文章であったと思う。内容としては目新しいことのない、いわば平凡なものであるが、現政権の教育改革の方向性を簡潔に整理していることでもあるので、少し紹介しておくことにする。

 広田氏によれば、現政権の教育改革は、「道徳の教育化、教育内容の国家統制、教員管理の徹底、教職員組合つぶしなど」であり、それは、「政治と行政とで教育の現場を完全にコントロールしてしまいたいという欲望に満ちているように感じられる」ものである。「これらは、国や行政が『正しいもの』を定め、画一的にそれを教え込ませるというやり方」であり、「多様化や異質性への寛容が求められる現代のような時代にあって、時代の流れに逆行する方針のように」思われる、とする。これらを実行すれば、「上からの指示通りに動く教員ばかり増えていくことになる」だろうし、「現場の自由や教育の多元性が失われ」ることになる。現状認識としても、批判としてもまったく正当だ。

 思えば、ここに書かれたような安倍政権の教育改革は、完全に戦前への回帰を目指すものだ。だからこそ、私は繰り返し、東日本大震災の教訓を後世に伝えようと力むなら、まずその必要性に気付いた人が、過去から何を学べるかに目を向けるべきだ、と言っているのである。教育が政府によって完全に支配されていたことが、人々の批判力の芽を摘み、太平洋戦争を引き起こし、泥沼化させた要因のひとつであることは間違いないし、経済政策で大成功を収めたナチスは、極めて民主的な方法で、圧倒的な議席数を確保することに成功した。安倍政権が、今の地に足の付かない経済政策で、浮ついた好況感を作り出し、これが参議院議員選挙まで持続されると、憲法や教育について国民の意に反することを考えていても、恐らく票は入る。

 広田氏の文章は、「本当に困ったことだ。ため息をつくしかない」と結ばれる。まったく何もかも、「本当に困ったことだ。ため息をつくしかない」のである。