いくつか見た「命の番組」



 毎週日曜日の夜、我が家の子供たちが一週間で最も楽しみにしているテレビ番組がある。NHKの『ダーウィンが来た!』だ。確かに、動物たちの知恵と工夫、生き物の世界の厳しさ、進化の不思議、更にはそれを長い時間かけて追い続ける撮影への驚きなどがあって、私が見ていても面白いと思う。

 加えて、今年は質の高い動物番組がいくつかあったような気がする。偶然なのか、いずれも海の生物を取り上げていたため、水産高校の職員室では見た人が多く、いろいろと話題になった。

 先週末は、土日の二夜連続で、『NHKスペシャル 深海の巨大生物』が放映された。土曜日はダイオウイカ、日曜日は深海ザメが主人公だった。ダイオウイカ篇は、1月13日に放映された『同 世界初撮影!深海の超巨大イカ』の続編になっている。深海ザメ篇は、これまた世界初もしくは非常に珍しいというラブカ、カグラザメミツクリザメメガマウスザメなどの海中での映像が次から次へと出てきた。自分自身が行って、実際にそれらを見ることなど絶対にできないわけだから、こうして映像化し、それを一般チャンネルで見せてもらえるのはありがたい。海が広いことくらい分かっていたつもりだったが、本当に、宇宙にも劣らないほど、まだまだ未知の世界が広がっているのだな、と思った。

 しかしながら、私がやっぱり一番感動したのは、6月23日に放映された『NHKスペシャル選 大海原の決闘 クジラ対シャチ』である。南の海で親クジラが数ヶ月間も絶食しながら行う子育て、そこから餌がたくさんあるベーリング海への長い旅、その途中でシャチの群れの巧妙な攻撃で次々と命を落とす子クジラ、シャチに襲われる親からはぐれたコククジラの子どもを助けようとするザトウクジラの群れ・・・、全てが感動的なのであるが、最も強く印象に残ったのは、「アリューシャンマジック」である。ベーリング海は、春になって氷が溶けた後、その海底地形の特徴もあってオキアミが大量発生し、それを餌とするニシンやミズナギドリが大集結する。ミズナギドリは一千万羽にもなるという。そこに、南からクジラ親子がやって来る。シャチとクジラを足すと、その数は4万頭。4万頭のクジラ類と、一千万羽のミズナギドリの命を支えるニシンとオキアミの量というのは、あまりにも途方がなさ過ぎて想像さえ及ばない。ごく短期間に、それだけの命が集中する、その現象を「アリューシャンマジック」と呼ぶのだそうだ。文句なしに感動的な光景である。

 その昔、ニュージーランドの海でイワシの群れがジャンプするのを見たことがある。もちろん、大きな群れ全体が空中に現れるなどということがあろうわけはなく、群れの上の方が少し水面に顔を出したに過ぎなかったはずである。それでも、海の一部が銀色に光り輝いて波立つ光景は、私に群れ全体がジャンプしたという錯覚を催させるほど強烈なものであった。

 命が充満している感覚というのは、なぜこれほどまでに心を動かすのであろうか?命そのものの尊さ?自分と何か繋がっているという感覚?命というより、大きなエネルギーから受ける圧力?・・・いろいろ考えてみるが、どれもが正しく、どれもが不十分であるように思う。

 小さな生き物はあっという間に食われてしまい、天敵などいそうにない深海の巨大ザメにしても、真っ暗闇の中で静かに泳ぎ回っているだけで何が楽しいのか?何の意味があるのか?と思ってしまう。だが、そうした命が支え合って、地球上の生き物は命をつなぎ、今がある。死んだ人を、50リットル以上の石油を使って燃やしてしまい、その体を他の命に差し出し循環させることなく、ただ空気中の二酸化炭素を増やしているだけの人間って、一体何なのだろう?テレビを見ながら、命の豊かさを見せつけられた時に、ふとそんなことを思い浮かべると、やはり人間の自然からの逸脱ぶり、反逆というものが限りなく異常なものに思われてくる。