「緊急だ、そんな悠長なこと言っている場合じゃないだろ!」



 何だか暗い気持ちになるし、別に私がわざわざ言うまでもなく、多くの人がいろいろなことを言っているので、どうでもよさそうなものだが、なかなか大変な状況なので、最近のいくつかの政治的な出来事について意思表明だけはしておこう。


【PKO 韓国軍への弾薬提供問題】

 たった4人のNSCで、日本が戦後長く守ってきた武器輸出三原則、PKO派遣ルールその他の積み上げを、「例外」と言いつつ、あっさりと崩してしまった。「例外」は、最初の1回こそ「例外」だが、1度やってしまえば「前例」になりかねない。

 韓国と日本の主張が食い違うことについては、両国それぞれに事情を抱えている(ウソをつく合理的理由がある)ので、どちらが正しいだろう、ということも言いにくい。ただ、「緊急事態」という理由は非常に危ない。「緊急事態だ、きれい事を言っている場合じゃないだろ?!」と言って、正義、原則、理念、議論といったものを簡単に踏みにじってしまう例は、歴史を探せば正に枚挙にいとまが無い。冷静な意見を無視し、自分たちの思い通りのことを実行するための「奥の手」である。


靖国神社参拝問題】

 人の気持ちを大切にすることは大切だ。だが、靖国であれ侵略戦争であれ、中国や韓国が外交カードに利用しようとする傾向はあると思う。それは胡散臭い。何かをする時に、打算的に損か得かで考えるのはよくない。いつも私が言っているとおり、「真偽と損得は矛盾する」。打算的な行動は、その時はよくても、やがて大きな問題を生む。だから、私は「首相の靖国神社参拝は国益を損なう」という言い方には反感を持つ。人の気持ちを考えて行動することも、人の気持ちは後回しにして、「信念」に基づいて行動することも、状況に応じてどちらも必要だ。後者の立場に立つ首相の、参拝に関する説明(談話と記者団への回答)は、これらだけを読んでいれば、なかなかに立派なものであった。

 しかし、ふたつの問題がある。ひとつは就任後1年間の首相の言動を振り返った時、「二度と再び戦争の惨禍によって人々の苦しむことのない時代を作るとの決意を込めて、不戦の誓いをいたしました」とか、「日本は戦後、自由と民主主義を守って参りました。そしてその下に、平和国家としての歩みをひたすらに歩んできた。この基本姿勢は一貫しています。この点において、一点の曇りもございません」といった言葉(記者団への発言)とは正反対の行動ばかりが思い浮かぶからだ。人は言葉よりも行動に本質が表れる。靖国神社参拝は、内閣法制局長官の更迭、日本版NSC、特定秘密保護法、韓国軍への弾薬提供といった施策の文脈で考えなければならない。

 もうひとつは、やはり「靖国神社」というものの性質だ。宗教施設であるということ、A級戦犯を合祀していること、どちらも重要な問題だ。首相ともなれば、「私人として」などという立場はあり得ない。私は、先の戦争の責任をあまりA級戦犯にばかり負わせることに反対の立場であるが、合祀されている場所に頭を下げるとなれば、政府として、太平洋戦争を肯定的に見ていると評価されることは仕方がない。マスコミも言うように、10月にアメリカの国務長官・国防長官が千鳥ヶ淵戦没者御苑を訪ねたことは、太平洋戦争の慰霊施設としては千鳥ヶ淵が最もよい、というアメリカのメッセージであったはずだ。穏当な判断である。そのことに気が付かなかったとすれば首相として愚鈍に過ぎるし、気付いていて靖国神社を選んだとすれば、狂信者の危険を感じる。

 「それ(=第1次安倍政権時に靖国に参拝できなかったことは痛恨の極みだ、と言ったこと)は、(自民党)総裁選においても、あるいは衆院選の時においてもそう述べて参りました。その上で私は総裁に選出され、そして、総理大臣となったわけでございます」(同前)

 総裁に選ばれたことで、自分の主張の全てに賛同が得られたと思うのも困ったものだが、現首相にそのような思想があったことは前々から分かっていたわけで、それを知りつつ選んだ方も悪い。もちろん、行き着く先は自民党を圧勝させた国民である。


【沖縄の米軍基地問題

 原発と同じことである。経済的に振るわない地方に札束をちらつかせ、危険を負担させる。沖縄県選出の自民党国会議員が同意し、同じく自民党推薦の県知事が同意をしたというのは、いくら反対集会が開かれたところで、やはり県民の中に相当数の同調者がおり、それが多数派だということだと思う。

 「米軍がいなくても中国の脅威はある、攻められる時にはまず沖縄だ、だから自衛隊でも米軍でもよいから、沖縄に大規模な部隊が展開するのは必要なことだ」と考えるか、「軍隊があるから猜疑心が生じ、衝突のリスクも高まるのだ」と考えるか・・・、あるいは、「日本が防衛の手を緩めれば、中国は尖閣諸島だけでなく、日本の領海や領土をも侵そうという危険を持っている」と考えるのか・・・?私は、軍隊は悪循環の根だと思っている。国際的に弱い立場になったとしても、多少の不利益を被ったとしても、戦争をすることで失うものに比べればどれほどでもない。

 沖縄は、金で沖縄を売ったのだと思う。自然破壊を別にしても、将来、米軍があることによって危険に巻き込まれた場合、ただ一方的に政府を批判する、というのはナシだ。人の弱みにつけ込む政府(国民)も、利益に目がくらむ沖縄も、責任は共に取らなければならない。