先月の末にM先生が、「平居先生、今年もサケが上がってきましたよ。ほとんどが震災の年に海に下ったやつです・・・」と声を掛けて下さった。昨年、宮水の栽培漁業類型の見学実習で、サケの孵化場や鴇波洗堰(ときなみあらいぜき)のサケ捕獲場に連れて行ってもらい、ひどく感動した話は書いた(→こちら)。その時の感動があまりにも大きかったので、その後、息子や友人を連れて見に行き、孵化場については、2月に放流を間近に控えた稚魚の様子まで見に行ってしまった(→こちら)。
M先生は、「今、あの日和大橋の下を、10万匹のサケが、昼も夜もうようよと上って行っているんですよ・・・」と続ける。私はほとんど毎日、朝、自転車を橋のてっぺんで止めると、川をのぞき込んでサケの姿を探した。残念ながら、一匹も見ることは出来なかった(水が濁っている上、川が深い)。夜、我が家の居間から日和大橋方面を眺めながらも(北上川の水面も少しは見える)、暗い川の中をざわざわとサケが上っていく姿を想像しては、鳥肌が立つような思いにとらわれていた。4年をかけてアラスカ沖まで旅してきたサケが、故郷の川を遡っていくという現象は、それほどまでに感動的である。
さて、今年は娘や妻も一度連れて行きたいと思いつつ、先日書いたとおり、毎週末びっしりと野球の試合があって行けずにいた。一番いい時期を過ごしてしまうのはもったいないあなぁ、土曜日の午前中に行って、捕獲しているのも見たいなぁ、と少しいらいらしていた。この土日、本当に久しぶりで野球を休ませてもよさそうな状況があったので、鴇波へ連れて行くぞ、と宣言していた。
昨日、朝起きたら、雨である。鴇波へ向かう。車だと30分である。旧北上川と新北上川の複雑な分流点であり、すぐ隣の脇谷(わきや)には閘門(こうもん=船の上げ下げをする施設)もあり、風景もとても雄大で魅力的な所だ。
たいした雨でもないと思ったが、驚くほど水量が多い。鴇波洗堰は水の流れが激しすぎて、水の中がよく見えないほどだ。捕獲場に既に人はいなかった。捕獲場の前の、あまり波の立っていない場所にも、サケの姿はほとんどない。鴇波から分かれている小さな枝沢にも、昨年は遡上するサケの姿があって、間近に見ることが出来たが、今年は死骸が2〜3見られるだけだった。堰を上ろうと跳び上がるサケもまれである。
「なんだ、パパが散々言っていた鴇波なんてこんなものか・・・」という妻と娘の冷たい視線を感じつつ、脇谷の捕獲場に軽トラが2台止まり、テントでできた休憩所の煙突から煙が出ているので、脇谷にも行ってみることにした。こちらは人がいて、サケを捕っていた。ただ、脇谷の捕獲場というのは、切り立った堰の下にあって、のぞき込むことも容易でない。それでも、多少は見ることが出来た。まもなく、サケを捕っていた2人の人が上がってきた。
「おはようございます。今日はもう終わりですか?」
「いやぁ、まだ捕んだけど、魚さっぱりいねのっしゃ。」
「もう時期が過ぎたんですか?」
「いやぁ、今年は少ねのっしゃ。ここら4箇所で52000捕んねくてねぇのに、まだ20000しか捕れてねくて、あと30000も本当に捕れんだかや。」
「今年のサケって、震災の年に放したやつですよね。何か影響ありますかね?」
「いやぁ、そいつはねぇな。あの年はたまたま震災があった3月11日に最後の放流したんだけど、すぐに海に下るわけでもねぇからねぇ。」
「じゃあ、今年捕れないっていうのはどうしてなんですか?」
「今年の夏に雨いっぺえ降って、すごい量のゴミが堰に引っかかってや、石巻さ流れる旧北上川の水の量が15%くらいになったのしゃ(←「15%減った」の間違いではなかろうか?)。ほんでも、なしてなんだべ?石巻の人たちってそのことばさっぱ気にしねんだなぁ。その関係で、川のにおい変わったんでねぇべか・・・。結局、俺達が国交省に掛け合って、ゴミ取ってけろだの、こっちさも水流した方がいいだの言うんだけど、国交省の考えてることもよく分かんねし、北上川は国交省だけど、追波川(おっぱがわ=脇谷より下流で、新旧北上川を接続している水路)は県が管理してっから、その辺もゴタゴタって、なんだか上手くいかねんだなぁ。新北上川に水流したがるっていうのは、原発が何か関係してんでねぇべか。他に考えらんねんだっちゃ。」
「さっき捕ったサケを木箱に入れて水に放り込んでいましたけど、あれはどうするんですか?」
「孵化場さ持って行くんだけど、今日はもうトラック行ってしまったし、明日は日曜だから、あさってまで入れておくっちゃ。それにしたって、こんだけ魚いねぇとどうしようもねぇもんなぁ。」
雨が降る中での立ち話で、あまり根掘り葉掘り聞くことはできず、よく分からないところも多々あったが、なんだか、いろいろと社会問題を含んでいそうな話で、帰る道すがら気になった。もう今年は行かない。来年こそは、たくさんのサケを見ることが出来ますように。