ビルマからの手紙



 私に東京在住の亡命ビルマ人の友人がいることは、かつて何度か書いたことがある(例えば→政治亡命への道ミャンマーに帰れるか?)。最近、ミャンマーで総選挙が行われ、政権交代が実現しそうになってきたことは、いろいろな報道で知っていたので、一度、東京のビルマ人社会で、このことがどのように受け止められているのか、私の友人を始めとする亡命者やそれに準ずるビルマ人が、帰国することになったりするのか、手紙で尋ねてみようかな、と思っていた。そうしたところ、今日、向こうから手紙が届いた(タイトルは「ビルマから」にしたが、実際の発信地は東京。「ビルマ」という呼称については後述)。2枚のレポート用紙に、小さな文字でびっしりと書いた英文の手紙だ。自分が今後どうするかは書いていないが、新聞やテレビの報道では見聞きすることがなかった情報も含まれてることだし、もしかすると、彼らの興奮が実感をもって伝わるかも知れないので(私の訳ではダメかな?)、手紙をそのまま訳してこの場に載せることにしよう。前後の挨拶言葉のような部分は省略。もちろん、文中に出てくる「ビルマ」という呼称は、軍事独裁政権によって採用された「ミャンマー」という国名を受け入れない、彼らの政治的立場を示しているのでそのままにした。


「11月8日に、ビルマでは総選挙がありました。私たちに大きな変化をもたらす結果です。選挙結果はまだ集計中で、完了してはいません。最終結果が出るまでには約3週間かかります。しかし、現時点で分かっている結果は、アウン・サン・スーチーの政党であるNLDにとって本当に素晴らしいものです。おそらく、最終的にNLDは約85%の票を獲得できるのではないかと思います。これは私たちにとってあまりにも偉大なことです。

 私たちもこれほどの結果になるとは少しも思っていませんでした。私たちが期待していたのは「65%」です。というのも、ビルマには軍事政権によって設定されたたくさんの障害があるからです。

 軍事政権によって制定された憲法によれば、議席の25%は軍人のために確保されています。ですから、NLDが仮に100%の得票率だったとしても、その100%は議席の75%にしかなりません。軍によって作られた与党であるUSDPは、26%の議席を獲得すれば、軍が持っている25%と合わせて、新しい軍事政権を作ることが出来ます。

 選挙管理委員会の委員長であるウ・ティン・アイェは退役将校であり、現在の大統領であるウ・テイン・セインと仲の良い友人です。彼は、もともとUSDPの有力メンバーでもありました。同様に、選挙管理委員会の他のメンバー達も、元もしくは現役の軍人です。委員会に一般人のメンバーはおらず、全てが軍人なのです。

 選挙管理委員会は本当に恥知らずです。選挙運動期間中、彼らは繰り返し選挙人名簿を捨てたりなくしたりしました。規則も投票日の2〜3日前まで繰り返し変更されました。多くの場所で、多くの人々の名前が選挙人名簿から抜け落ちているかと思えば、既に死んでしまった人の名前が載っている、といった具合です。彼らは、自分たちが利益を得、事前投票(意味不明。原文は「pre-vote」)を自分たちのために使えるように、選挙人名簿をメチャクチャにしました。彼らは、事前投票をUSDPのために使うことが出来たのです。そして、委員長ウ・ティン・アイェは、選挙人名簿が30%しか正しくないことを公言しました。(本当に恥知らずなことです)

 25%の軍人の議席は軍事司令官の命令によって決められます。たった一人の力が25%で、全国民の力が75%です。軍は自動的に25%の議席を手に入れられる上、軍人とその家族にも、その他の国民と同様に投票の権利があります。しかも、彼らのほとんどが事前投票としてその権利を用いることが出来ます。

 現在、私たちにとって最も恐ろしいのは仏教過激派です。私たちの国は、人口爆発が起こっているイスラム教国家のバングラデシュと隣り合わせです。多くのバングラデシュイスラム教徒が、ビルマの西部に入ってきています。仏教僧侶の一部は政府から援助を受けて活動を活発にしています。彼らはビルマ全土で、仏教を守りNLDを批判するために活動しています。彼らは、もしもNLDが力を得て、民主主義と人権が幅を利かせるようになったら、イスラム教もビルマ国内で勢力を拡大することが容易になると訴えています。多くの国民は、それを信じ、イスラム教によって自分たちが多くの苦しみを味わうようになると不安に思っています。憲法に「政治に宗教を持ち込んではならない」と書いてはありますが、政治家は仏教過激派に対して適切な措置を執ろうとしません。だから、私たちは仏教過激派の動きを警戒しているのです。

 しかし、実際に人々はNLDに投票しました。これは驚くべきことです。当初、私たちはNLDが60〜65%の票を獲得すると思いました。ところが、あり得ないことですが、NLDは80〜90%の票を獲得しそうです。もしも、現在の政府が素直に結果を受け入れるなら、NLDはNLDの政府を作ることが出来るでしょう。そして私たちは、来年の3月にその新しい政府を目にすることができるのです。

 私のいとこの孫の一人も、ある町から当選しました。来年3月までの時間は、NLDにとって本当に危険な時期です。軍と古い軍事政権は彼らの持つ膨大な財産の存在を知られたくないからです。

 とは言え、私たちは私たちの国で起こっていることが、本当に本当に幸せです。今後何が起きるかは分かりません。1990年にNLDが82.3%の票を獲得した時には、軍がその権限を手放そうとはしませんでした。心配しながら、今後の情勢を見守りたいと思っています。」