やっぱり無理、バイオマス発電所

 昨晩は、「(仮称)石巻港バイオマス発電事業 環境影響評価方法書の説明会」というのに出席していた。12月12日の新聞に折り込みで入っていたB4版の広告を見て知ったのである。主催者は株式会社レノバ バイオマス事業部だ。なにしろ、日本製紙がよく分からないうちに石炭火力発電所を建設し、運転を始めてしまって地団駄踏んでいた私である(→参考記事)。石炭火力とバイオマスでは少し違うように見えるが、実は同じ穴の狢だ。是非行かなくては、と、環境問題に関心の高い良識的な知人に声をかけつつ、学校を早退して駆けつけた。
 石巻を代表するホテルの美しい広間に、200席くらいが用意され、そこに約50人の聴衆が集まった。レノバというもともとリサイクルを専業としていた会社が、石巻工業港に74,950kwのバイオマス発電所を建設する。ひいては、それについての環境影響評価報告書をどのようにして作成するかという説明会である。発電所そのものは、2020年に建設を始め、2022年中の運転開始を目指しているので、今のところ影も形もない。あくまでも環境影響予測をどのようにするか、という話である。
 会社から挨拶と説明とで50分間のお話があった後、質疑となった。さすがはそんなところに集まる人たちである。環境問題や発電事業についてそれなりの知識を持っていると思われる人たちが、なかなか的確な質問をし、問題点を明らかにしていった、という感じがした。
 バイオマスというのは、基本的に木である。一応、間伐材やパーム油を取った後の殻を燃やすことになっていて、全てが植物由来であるため、カーボンニュートラル、すなわち、植物が生長する時の二酸化炭素の吸収と、それを燃やした時の排出の収支がゼロということになっている。しかし、私は商業的な発電施設を支えきれるほど大量の間伐材があるとは思っていないし、それらを遠く外国から持ってくるとなれば、輸送については大量の石油を消費する=二酸化炭素を排出する。美味しい話は危険だぞ、と思っていた。
 実際、たとえば某参加者は次のような恐ろしい指摘をしていた。
 「現在日本で稼働しているバイオマス発電所は85万kwだが、今年3月時点で建設・操業が認可されている発電所は1147万kw分に上る。その発電所を動かすには、年間1億トンの燃料が必要だ。ところが、現在製紙用の木材チップが1152万トン、世界のペレットが2400万トン、パーム殻が1000万トンで、それら全てを足しても4552万トンにしかならない。つまり、紙を作るのを止めてまで、木材をバイオマス燃料につぎ込んだとしても、5448万トンが不足する。これをどうするつもりか?」
 業者の説明は更に恐ろしいものだった。
 「現在計画中の発電所の半分はパーム油を燃料とする。これはなかなか難しい。燃料との需給関係で、それらの発電所が今後どうなるかは分からない。4分の3くらいは成り立たないかも知れない。」
 この回答がなぜ恐ろしいかというと、パーム油を燃やすというのが、実は非常に深刻な環境問題だからだ。今「パーム油」という言葉で検索すると、おびただしい数の記事がヒットするが、それらはどれもこれも、パーム油の需要を増やすことがいかに深刻なダメージを地球に与えるか、ということを論じている。およそ好意的な記事にはお目にかかれない。
 パーム油を取るためのパーム椰子は、主に東南アジアの熱帯林を切り拓いた広大なプランテーションで育てられている。熱帯雨林を切ってパーム椰子畑にすると、二酸化炭素の吸収力が低下する上、生物多様性が破壊される。それどころか、土壌となっている泥炭層を露出させて、地中に眠っていた二酸化炭素を解放することになる。それを考慮すると、パーム油の排出する温室効果ガスは、悪名高き石炭の数倍以上にも及ぶ可能性がある。アメリカでは既に食品以外としての使用が禁止され、ヨーロッパでも2020年までに禁止される予定だなどなど・・・。正に身の毛のよだつ話である。
 しかも、ここで指摘されたのは、今この瞬間の燃料収支である。しかし、発電所が操業を始めた時に、木の成長速度よりも、バイオマスの消費速度の方が遅いということはあり得ない。むしろ、消費速度の方が圧倒的に早いはずだ。とすれば、時間が経てば経つほど、消費が許される燃料の確保は困難になっていくのである。わたしの頭では、どのように考えても、バイオマス発電は成り立たない事業である。もちろん、環境への貢献なんてまったくない。
 電気自動車と同じなのだ。電気を使って動いている瞬間だけ見ればクリーンだが、その電気をどのように供給するのかということに目を向ければ、絶対にクリーンではあり得ない。バイオマスも、パーム油は論外としてとりあえず無視するとして、ペレットを燃やして発電している場面だけを見ればカーボンニュートラルだが、ではその燃料をどうやって供給しているの?という話になれば、突然化けの皮ははがれる。
 結局、虫のいいことを考えてはいけないのだ。現在の狂瀾怒濤の贅沢生活を全て温存した上で、環境問題を克服し、なおかつもうけるなどということは不可能だと観念すべきなのだ。少なくとも現時点での正しい環境対策は、消費エネルギーをいかにして減らすか、ということにしかないのだ。私だって、魔法のような方法の出現を期待する気持ちは人並みにあるつもりだが、「人間は自分が見たいと思うものしか見えない」というカエサルの忠告に従って自らを律するなら、残念ながら、どうしてもそれはあり得ないとしか言えないのである。
 このたび石巻工業港に建設を予定している発電所は、その出力からして、環境影響評価報告(アセスメント)が義務づけられていない。その中で、相当なお金をかけて、あえて自ら環境への影響を調査し、しかも早い段階で市民向けの説明会を開いたことは高く評価に値する。答弁も誠実だった。だが・・・やっぱりバイオマス発電はまやかしであり、環境上のプラスはないなぁ。いや、もしかすると、バイオマス発電所よりも、大々的な宣伝があったにも関わらず、市民が50人しか集まらなかったという現実の方が危険かも知れない。