極まれり

 金曜日から3日間、登山の新人大会であった。と言いながら、金曜日から3日間で、3日目に当たる今日、まだ昼過ぎのこの時間(15時前後)に、石巻の自宅でこんなものを書いているのは計算が合わない。
 実は台風25号の「接近」で、3日目をキャンセルし、2日目の夕方に閉会してしまったのである。風雨が強まれば、キャンプサイトの近くの公民館に避難できる手はずが整っていたし、保護者には事前にそのような緊急時対応に関する文書まで配布されていたにもかかわらず、緊急時対応を取る前に、最緊急時対応(奥の手)を使ったのは、大会を終えて仙台に戻った時に、公共交通手段が止まっていると、生徒を家庭に戻すのに大変だから、という理由である。天気図を見ながら、日本海を北東に進む台風は、おそらくほとんど影響がないだろうなぁ、と思っていた私は、高体連登山専門部(教育現場)の弱気もとうとうここまで来たか、との感慨を抱いた。「感慨」と言えば無色透明だが、実際には「慨嘆」とでも言った方が正しい。
 昨夕、4時過ぎに閉会式をしている時には、怪しげな黒雲が空を覆い、いかにも不気味な台風の接近、という風ではあったが、その後、雨が降ったわけでも風が吹いたわけでもなく、今日は朝から穏やかな快晴。その後、10時頃から吹き返しのような強風が吹いて、我が家から見える南浜地区(震災復興の大土木工事中)はまるで砂嵐。昼前からは暴風警報も発令されて、珍しく40分間に及ぶ停電も発生した。当初仙台に戻る予定だった時間(今から1時間あまり前くらい)には、列車に多少の遅れや運休が出ているようなので、なんとか面目は保った格好だが、それにしても驚くべき弱気である。
 ひとたび何か事故が起こった時の、関係者やマスコミによるヒステリックな非難を恐れて、特に「公」は萎縮が甚だしい。列車を簡単に止めてしまう、それに連動する形で学校が休校となる、そして今回のようなイベントも中止になる。子ども達は、大人になった時、このような自分の体験を判断基準とし、更に弱気な方向に進むであろう。もちろん、その結果として安全は確保されるが、人間の弱体化も進む。長い目で見れば、その弱体化こそがむしろ危険であるような気がする。

 期間は短縮されたものの、大会そのものは行われ、山にも登れば、最後に審査結果も発表されて、何の問題もなく「完結」した。
  会場は川崎町の笹谷である。1日目はセントメリースキー場内の周回コース、2日目は笹谷古道からトンガリ山(1241m)を往復。3日目もスキー場内を登る予定で、そのつまらなさに、教員も生徒もげんなりしていたので、3日目がなくて内心喜んだ人も多かったかもしれない。
 台風の影響なのか、2日目は猛烈に暑かった。雪さえ降ることのある新人大会で、これほど汗をかきながら、真夏のような山登りをしたことはかつてない。秋分も過ぎて高度を下げた太陽の光が、なぜこんなに厳しいのだろう?加えて、午前中は無風。引率者である私は、半袖Tシャツにサブザックだったにもかかわらず(生徒は長袖、メインザック)、8時間ほどの行動で、1.5リットルもの水を消費した。帰宅すると、露出していた部分が真っ赤に焼けていた。
 ただ、暑かったにもかかわらず、湿度は低かったと見えて、空気は非常にクリアー。遠景も美しく見えた。飯豊連峰、朝日連峰、月山、そして角度の関係で一瞬だけではあったが、鳥海山もはっきりと見えた。標高約1300m付近は、季節外れの暑さとは不釣り合いな紅葉の盛り。強い日差しが当たった山形神室(1344m)、仙台神室(1356m)の斜面は美しかった。笹谷古道は相変わらずのいい山道で、暑さに消耗はしたものの、まずはいい山行だった。
 儲けもののような今日の時間も手に入ったし、余計なことを考えなければ、楽で大助かりなのであった。