天皇のお言葉・・・外国人労働者について

 とにかくドタバタと駆け回っていたため、テレビを見る機会もほとんどなかったが、そんな中で、1月5日の夜にBS朝日で放映された「皇室スペシャル 美智子さま」は、とても感動的だった。
 もともとこの番組を見るつもりはなかったのだが、実家で母が見始めたので、ついつい見ることになってしまった。もちろん、それは決して「仕方なく」ではない。以前書いたとおり(→こちら)、私も今の天皇ご夫妻に対してだけは、人並み以上の敬愛・尊崇の念を抱いているのである。
 番組は、先月の天皇誕生日に行われた今上天皇の記者会見での「お言葉」を軸として構成されていた。この構成はとてもよくできていた。
 それでも、私が、延々2時間に及ぶこの番組を最後まで見ることになったのは、番組の冒頭近くで取り上げられた天皇の発言によっている。それは次のようなものだ。

「今年、我が国から海外への移住が始まって150年を迎えました。この間、多くの日本人は、赴いた地の人々の助けを受けながら努力を重ね、その社会の一員として活躍するようになりました。こうした日系の人たちの努力を思いながら、各国を訪れた際には、できる限り会う機会を持ってきました。そして近年、多くの外国人が我が国で働くようになりました。私どもがフィリピンやベトナムを訪問した際も、将来日本で職業に就くことを目指してその準備に励んでいる人たちと会いました。日系の人たちが各国で助けを受けながら、それぞれの社会の一員として活躍していることに思いを致しつつ、各国から我が国に来て仕事をする人々を、社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるよう願っています。」

 天皇の記者会見については、12月24日の新聞各紙でも大きく取り上げられていたが、皇后へのいたわりや、沖縄県民への共感、太平洋戦争に対する意識については問題にしていても、この部分を大きく取り上げ、あるいは重要視した報道がどれだけあっただろうか?四国を旅行中で、私自身がメディアに接する機会を普段どおりには持てていなかったという事情もあってか、少なくとも私の記憶の範囲にはないのである。
 番組の中で、テレビ朝日(だったかな?)の皇室担当記者は、「日系移民についての言及はあるかも知れないと予想していたが、それと関連づけて、日本で働く外国人に触れることはまったく予想できなかった」と述べていた。おそらく、メディアに驚きを持って迎えられた部分ではあったが、戦争や沖縄という大問題の前では、相対的に重要な問題とはなりきれなかった、ということだろう。
 今までも、天皇の言葉の端々に、極めて献身的で良識ある「公務員」の姿と、温かい人柄とを感じてきたからこそ、私も敬愛の念を抱いているのだが、そのような天皇理解の延長線上にこの発言を見るとどうなるか?「日本で仕事をする外国人を、安価な労働力として見るのではなく、ともにこの国で生きる仲間として、思いやりを持って接したいものですね」となる。
 言うまでもなくこれは、昨秋、国会で行われた出入国管理法改正についての議論に対する、今上天皇からの批判である。政治的発言が禁じられている天皇は、熟慮の結果、日系移民問題を話題のきっかけとしながら、巧みに否定形を避け、上のような表現にたどり着いたのだ。不遜な物言いだが、やっぱり偉いな、今上天皇
 上の発言は、次のように続く。

「また、外国からの訪問者も年々増えています。この訪問者が我が国を自らの目で見て理解を深め、各国との親善友好関係が進むことを願っています。」

 訪日外国人旅行者を2020年に4000万人にする、という政府の目標には、金のにおいばかりが漂う。なぜ外国人に来て欲しいのか?彼らが金を落とすからだ。おそらく、天皇はそのことにも心を痛めている。そして、外国人が来日することは、各国との友好親善にとってこそ価値を持って欲しいと願う。
 今上天皇のこのような思いを読み取り、今後の諸活動に生かしていきたいものである。BS朝日がその部分に目を付け、取り上げたことは大いに評価に値する。私の記事と違い、政府批判として扱わなかったことも、マスメディアとしては賢明であった。それの政府批判としての価値を指摘することは、このブログのような零細なメディアの役割である。