法政大学えらい!

 菅新首相の誕生で、出身地の秋田県ではお祭り騒ぎが続いているらしい。そもそも、自民党秋田県連は、「県出身者初の総理という夢を実現させよう」と言って、党員による予備選挙を行わず、県連が持つ総裁選挙の3票をすべて菅氏に入れることを早々に決定したくらいだから、まぁ、推して知るべしなのである(→関連記事)。
 地元からオリンピック選手が出た、文化勲章だ、芥川賞だと言って大騒ぎするのは一向にかまわないが、政治家については絶対に許されない。同郷というのはある種の「基礎集団」であり、政治(政党)というのは「機能集団」である。混同してはいけない。その人の政治思想、政治家としての能力を抜きにした「地元」意識などあり得ない。
 そんな中、昨日、ネットでAERAdotの「菅首相誕生、出身校・法政大は祝意や喜びを示さずクールな対応」という記事を読んで大いに感心した。記事によれば、菅氏の母校・法政大学は、菅氏の首相就任に当たり、ホームページでそのことをわずかに次のように伝えた。

「本学卒業生 菅義偉さんの内閣総理大臣選出について
本学第一部法学部政治学科を1973年3月に卒業された菅義偉さんが、第99代内閣総理大臣に選出されました。ご活躍を祈念いたします。以上
2020年9月16日  法政大学」

 そして、翌日には、この記事の上に学生の動向に関する新着情報が書き加えられ、しかもそちらの方が7倍近い文字数を費やしている、とも。
 法政大学の歴史においても初めての首相である。舞い上がる人がいてもおかしくない。それでいてこの対応。「以上」の素っ気なさが好ましい。引き合いに出されている秋田県立湯沢高校の狂喜乱舞との対照も面白い。本当はホームページで触れる必要もないのだが、学校の宣伝にもなることだし、さすがにそこまで言うのは酷だろう。法政大学は実に立派である。
 記事は「菅首相は法政大で「自分で考え、自分で決断できる強み」を学んだ。田中総長はそのことを大学の良さとして評価している。田中総長にすれば、菅首相の「決断」をしっかり注目します、お手並み拝見、といったところだろうか。祝意や喜びを示さず、「ご活躍を祈念」するにとどめたのは、田中総長ならではのエールなのかもしれない。」とコメントしている。「祝意や」以下、最後の一文は余計だ。総長がわざわざエールを送る必要もない。
 私にも、人並みに「母校」というものがあって、そこで過ごした時間には愛着のようなものを感じるし、世話になった先生や仲間(先輩・後輩含む)には感謝の念を持っている。しかし、母校というのは、それらを与えてくれた「場」に過ぎない。校風を身に帯びているとも思わないし、校訓を血肉化しているとも思わない。
 だから、私が政治家になったとして、それが母校とどれほど関係するかは怪しいものである。まして、母校の関係者がことごとく私の政治思想に賛同している状態は考えられない。仮に私が首相になったとして、「母校」から「我が校はこのたび首相となった平居某を生んだ」などと言われたら、多少なりとも違和感を抱くに違いなく、その点で、書かれる側としても法政流に好感を持つと思うのだが・・・。(逆に言えば、湯沢流は「うざい」と感じる。)
 というわけで、湯沢高校、法政大学、この極めて対照的な態度に対して、菅氏自身はどのような思いを抱くものなのだろうか?