痛恨!・・・修学旅行は結局中止

(11月20日付「学年だより№70」より)


【修学旅行の中止について】

 事情については、緊急学年集会における校長からの直接の話や、昨日の文書にあったとおりだが、やや裏話めいたことや、私自身の思いも含めて、少し補足的に書いておくことにする。
 実は、私たちは11月18日というのを、ある特別な日として意識していた。保護者向け説明会と、翌日配布の補足文書でも明らかにしてあることだが、修学旅行本番に向けて所定の期日毎にキャンセル料が値上がりしていく。その最初の大きなラインが18日と19日の間にあった。18日までにキャンセルすれば、キャンセル料は2000円で済むが、19日にキャンセルすると、一気に15000円となる。
 このキャンセル料については、説明会で保護者に対し正直に話し、そのことまで含めて承諾してもらった(はずである)とは言え、やむを得ずキャンセルするにしても、キャンセル料は安いに越した事がない。この10日ほどの急激な状況の悪化に伴い、私たちは18日というのをひどく意識するようになった。
 私たちが危機感を感じて議論を始めた先週末が、「第3波」のピークであるなら、むしろ約1ヶ月後、修学旅行本番には感染者が減って、比較的安心して旅行が出来るようになるかも知れない。しかし、いつがピークであるかは、後から振り返った時にしか分からない(実際、その後状況は更に悪化している)。これらのような様々な事情の中で、私たちとしても苦しい判断をしなければならなかったということだ。この判断が適切であったかどうかも、後にならないと分からないし、よかったにしても悪かったにしても、私たちの判断力が優れていた、もしくは劣っていたというわけではなく、偶然である(結果論)。
 さて、ここからは私の個人的な思い。
 私自身は、今くらい感染が拡大していても、決定的な危機だとはあまり思っていない。感染の可能性は決して高くはない(宮城県の場合、累積で考えても2200人に1人くらい)し、重症化、死亡の確率ははるかに低い(高校生についてはゼロと言っていいくらい)。しかも、保護者説明会でお話ししたとおり、学校にいれば確率はゼロで、旅行に行けば何十%になるというものではない。少し確率が高くなる、という程度の話だ。
 近年、学校は、問題を起こすこと、問題が起きることを極端なまでに恐れている(世間から袋叩きにされるからだろう)。生徒にとってのどんなメリットを犠牲にしてでも、デメリットがないということが優先される傾向が強い。だから、何か問題が発生すれば(しそうになれば)、すぐに禁止や中止の措置が取られる。問題が発生しない代わりに、得るものもないという状態は、長い目で見た時にかえって大きなマイナスになるのではないか?・・・私はそんな風にモヤモヤと悩む。
 私は諸君に、奈良の文化財や伊勢の景観を見せたかった。それが出来なくなってしまったのは本当に残念だ。
 私の価値観というのは非常にシンプルで、おそらくたった2つか3つの原則だけで生活しているのだが、その中のひとつに、この「学年だより」にもたびたび登場している「いいものしか古くなれない(=古くなれたものはいいものである)」というものがある。
 そんな私にとって奈良は価値あるものの宝庫だ。何しろ、日本に現存する28の奈良時代の建物のほとんどが奈良盆地にあるのだ(当たり前)。修学旅行の定番である大仏殿(江戸時代)は、大きいだけが取り柄で優れたものには見えないが、同じ東大寺でも転害門、三月堂は奈良時代の建物。隣接する正倉院も、薬師寺の東塔や法隆寺の建物群も・・・どれもこれも構造的に完璧で、意匠も優れているため、あの西本願寺のビデオ(→前編について後編について)で見てもらったような膨大な労力を費やして維持されてきたのだ。
 特に若いうちに、それらのような「本物」を見ることは大切だ。これまた時折言うとおり、いいものを見ていた目が悪いものを見抜くことはできるが、悪いものしか見ていない目にはいいものが見抜けないという法則があるからである。私が見たところ、商業主義の影響で、諸君はかなり質の低い文化に取り囲まれて生活している。そんな諸君に「本物」を見るチャンスを与えたかった。
 また、失礼な物言いで申し訳ないが、日頃諸君と接していて、その住んでいる世界の狭さ、知識の貧しさに驚くことは多い。地理の先生に見せてもらった諸君の「日本地図」(年度当初の授業で諸君が何も見ずに白紙に書いたもの)は衝撃だった。修学旅行で諸君の地理的認識がどれだけ改善されるかは分からないが、そのための重要なチャンスであったことも確かだ。
 一応、このような私の思いは、諸君の考える材料としてでも知っていて欲しい。その上で、意識的に世界を広げ、近い将来、京都や大阪、神戸も含めた関西に自分で行ってみて欲しい(出来れば、ちゃんと予習をした上でね・・・)。
 今言えるのはここまで。修学旅行はなくなったけど、今後の高校生活をどのように変化あるものにし、緊張感を維持していくかなど、お互い前向きに考えていきたい。


裏面の余白に、11月12日付け朝日新聞より「科学」欄。「コブゴミムシダマシ」についての記事。平居コメントなし。