「台湾にワクチン提供」の恥ずかしさ

 昨日は正に暴風雨。石巻では総雨量が51㎜、最大瞬間風速が21.9mだった。総雨量の51㎜はたいしたことないようにも思うが、何しろ吹き降りで、歩く時に防ぎようがなかったのと、強風で雨が窓ガラスに叩きつけられる音が大きかったため、殊更に強く感じたようだ。我が家から見える太平洋も、台風の時と同じ。波消しブロックで砕けてできる大きなしぶきが、高さ7.2mの防潮堤をはるかに超えていた。
 「台風」のために、実に哀しい出来事があった。母の家で庭の面倒を見て下さっているSさんの技を盗みながら、我が家の自宅の猫の額ほどの畑で育てていたトマトときゅうりが、昨日の強風のために折れてしまったのである。もちろん、つっかえ棒を立ててひもで止めてあったので、全滅にはならなかったが、キュウリの頭とトマトの枝が3本ばかり折れている。完全にぽっきり折れたわけではないので、もしかすると復活するかも知れないが、とにかく、折れたのである。私なんかは趣味みたいなものなのでいいが、これを職業としてやっている人にしてみれば、たまらないだろうなぁ、と容易に想像が付く。
 話はまったく変わる。
 日本が台湾に、新型コロナウイルスのワクチン124万回分を無償で提供した、という話が、政府の発表から日本を出発、台湾に到着、蔡英文総統が感謝の言葉を述べた・・・と、かなり詳しく報道された。おお、日本もやるなぁ、自分の国の心配だけでも大変なのに立派だ、などとは全然思わなかった。むしろ「穴があったら入りたい」ような話だ。
 そりゃあそうだろう。台湾に提供したのはイギリス、アストラゼネカ社製のものである。このワクチンは、血栓ができるという重度の副反応が起きやすいと言われている。イギリスではそれが原因で既に19人が死んだ。そこで日本政府は、このワクチンを薬品として承認はしたものの、公的な接種では使用しないことになった。だから余っていたのである。台湾の危機的状況をおもんぱかって、貴重な日本人用のワクチンを分けてあげたというなら立派な美談だが、承認はしたものの、危ないから使えないとして余ってしまったワクチンを他国に提供するなんて、本当にひどい話だ。
 蔡英文総統が、日本に対する深い感謝の言葉を述べたと言うが、「提供する」と言われた時に、今後の関係を考えれば、「危なくて自分たちで打てないから余った薬なんていらねぇよ」と啖呵を切れるわけもなく、とりあえず儀礼上「感謝の言葉」を述べるのは当たり前だ。腹の中で何を思っているかは別である。日本台湾交流協会台北事務所(国交のない台湾における大使館相当の場所)には、感謝の気持ちを表す多くの花束が届いたというが、それとて嫌味かも知れない。提供したワクチンを打った人の中から、血栓症で死ぬ人が出たら、その時は大きな問題になるだろう。
 そもそも、危ないから使えない薬をなぜ承認したのかも理解不能である。オリンピックを控え、内閣の支持率が徐々に下がっている中で、少しでも早くワクチン接種ができれば、国民もその他のことは忘れて政府を評価するだろう、そのためにはとにかくワクチンの量を確保しないわけには行かない。こんな文脈の中で、杜撰な審査によって承認したということなのだろう。
 更に不思議なのは、ワクチン譲渡に関するこの恥ずかしいような事情に、日本のマスコミが全然言及しないことだ。なんだか私は、政府もマスコミも「誇り」を失ってしまったような気がして哀しい。