先週の金曜日、「文春オンライン」にアップされたトヨタ自動車社長・豊田章男氏のインタビュー記事を、とても興味深く読んだ。
氏はそこで、トヨタが生産する全車をEV(電気自動車)化しない理由を語っている。それは次の3点だ。
1)EVに必要な蓄電池を作るのには多くの電力が必要。
2)EVを走らせるための電気も発電所で作る。
3)EV車は国内生産に向かないため、雇用が確保できない。
私が興味を持って読み、好感を感じたのは、話が正直で、「エコなふり(=ごまかし)」をしていないからである。もう少し具体的に見ながら、私としての補足も付け加えよう。
今年4月11日の日本経済新聞に、EVの環境負荷がいかに大きいか、という大きな記事が出た。EVは、製造時にガソリン車の2.5倍の二酸化炭素を出す上、電気を作る時にも二酸化炭素を出すため、11万㎞走ってようやくEV車とガソリン車の環境負荷が釣り合うのだそうだ。ちなみに、それがヨーロッパだと7万6千㎞、アメリカだと6万㎞で、なぜこのような差が生まれるかというと、それらの国毎に、ガソリン車の燃費の平均値や電気の製造方法が異なるかららしい。豊田氏は数字を出していないが、1番目はこのような事実を受けての発言だろう。
2番目に関して、豊田氏は、更に具体的な話をする。氏は、日本の全ての自動車をEV化した場合、どれくらいの電力が必要になるかを計算している。それによれば、原発10基、または火力発電所20基だそうである。これはあくまでも、走るための電力だと思われるので、製造過程を入れると、必要な発電所の数は更に増える。私が前から気にしていたEV車の電力消費について、触れるだけでも珍しいのに、これほど具体的に語ったというのは立派である。私くらいエネルギー消費を気にしている人間でも、こんな数字を見たのは初めてだ。
3番目はどういうことかと言うと、日本にはクリーンな電力が少なく、コストも高いからだそうだ。クリーンな電力が少ないというのは、日本の発電システムの問題だ。悪名高き石炭火力発電所の多さなどがその原因である。豊田氏によれば、仕方がないからEVの生産拠点を海外に置くと、日本で550万人が失業することになるらしい。いちいち具体的だ。
こんな話を読んでいると、やっぱりEVはケシカランという憤りよりは、その生産責任者が、善も悪も含めてちゃんと分かって動いていること、その上で、人の生活を維持するという現実問題を踏まえて合理的判断を下そうと意識していることが感じられて、かえって安心感を感じるものである。
環境と経済の話は、このように常に誠実・正直にして欲しいものだ。その上で、550万人の失業者を出してでもEV化を進めるのか、あきらめてトヨタ方式に従い、自動車以外の分野で二酸化炭素の縮減を目指すのか、といったことは一企業の社長だけが考えることではなく、最終的に政治家の責任である。