小さな非日常

 私が日頃からよく「全国で最も気候がいい」と言う石巻も、7月の末になり、1週間ほど前から暑くなった。気温の変化と言うよりは湿度の変化である。ねっとりとした夏の空気だ。そして、昨日からは一気に気温も上がった。昨日はなんと35.8℃の猛暑日。家の中でも33℃まで上がった。夜になっても気温は下がらず、気象情報では24.6℃まで下がり、熱帯夜は回避したことになっているが、今朝5時半に起きた時に、部屋の中のデジタル温度計は27.9℃あった。なかなか立派な暑さだ。ただ、6月30日に34.5℃まで上がった時と違い、「夏の盛りだから仕方ないな」という諦めがつく。
 さて、どうでもいいような日常の些事をふたつ書き留めておく。
 先週の水曜日、27日の夜、マキアートテラス(新市民会館)のバックヤードツアーというのに行った。夏休み中に子ども向け(昼)が4回、大人向け(夜)が2回開かれる、そのうちの1回に参加したのである。
 情報を入手して、予約の電話をかけたのは前日であった。定員は15人なので、ダメかな、と思ったら、受け付けてもらえた。行ってみると、参加者はわずか7人だった。萌江ちゃんというとんでもなく明るいご当地アイドルの案内で回る。
 さほど大きな場所でもないのに、所要時間は1時間半ということになっている。いったい何を見せてくれるんだろう?と期待していたのだが、茶番としか言いようのない寸劇が入ったり、変なパフォーマンスをやらされたり、おやつタイムがあったりで、時間の割に見られる場所は多くない。館全体(小ホールや市の博物館もある)かと思っていたら、大ホールの関連施設だけというのも期待外れだった。結局、時間帯が違うだけで、子供用も大人用も内容が同じ、ということなのだ。というわけで、ややがっかりはしたのだが、それでも、楽屋にしても、搬入口にしても、ピンルーム(照明室)やそこに至る担当者専用の屋根裏通路にしても、こんな機会でなければ見られないわけだから、行った価値はあったのだろう。
 日曜日、娘が日帰りで東京に行くと言うから、「週末パス」なる切符を買った。東北南部から関東甲信越に至る広大な範囲が、一部の私鉄も含めて乗り降り自由という優れものである。値段は8880円。石巻からなら、東京を往復するだけで十分に元が取れる。しかし、有効期間2日のうち1日しか使わないのはもったいない、記名式(=使用者限定)でもないのだから、土曜日は私が使うぞ、と宣言して、仙台市郊外の実家の様子を見に行くことにした。普通に切符を買って往復すると、2300円あまりかかる。
 朝1番の仙石東北ラインに乗ると、8時半までには実家につく。家中の窓を開けて換気し、近所の家に挨拶に行っても、2~3時間で十分だ。せっかく「伝家の宝刀」を持っているのだから、と、小旅行をすることにした。

東北本線の某駅→11:47槻木11:53→(阿武隈急行鉄道)→12:36梁川12:51→(同)→13:20福島13:25→(福島交通)→13:48飯坂温泉13:50→(同)→14:11曽根田・・・(徒歩)・・・福島14:40→15:16白石15:20→16:07仙台16:15→17:12石巻

 阿武隈急行線福島交通(電車)も週末パスが使えるので、この間の交通費は「タダ」である。阿武隈急行にも福島交通にも乗ったことはあったのだが、既に15年かそれ以上前の話である。阿武隈急行は今年3月16日の地震で不通となり、全線開通したのはわずか1ヶ月前の6月27日のことである。なおのこと、気分は新鮮だ。
 福島交通で、飯坂からの帰り、曽根田で下りたのは、駅舎の雰囲気がレトロでいいな、と思ったからである。一応無人駅だが、喫茶店が営業している。駅には「いい電新聞(号外)」というのが置いてあって、それによれば、今年の4月29日に1942年建築当時の姿によみがえったらしい。また、島式ホームの片方(東側)に、昔の電車が止めてあって、フリースペースとして使えるようにしてある。勉強やテレワークに使えば快適そうな木製机+コンセントのブースが12あって、利用料は不要、始発から終電までの間誰でも利用可というから、日常的に使える環境にある人が羨ましい。「お休み処 ナナセン」と言う。使われている電車が、かつてここで走っていた東急7000系(日本初のオールステンレス車機械遺産)だからである。更にその隣には、電車見物用の「電車広場」もある。
 阿武隈急行福島交通も、たまたま新型車両だった。もっとも、福島交通1000系は、福島交通としては新型というだけで、車体は東急のお古である。全然、お古のような感じがしない。新しい電車である。
 運転席の後ろ、客席側に製造証明のプレートが付いていて、それによれば、東急車輌で「昭和64年」に作られたものである。ご存じの通り、昭和64年は天皇崩御によって1月7日に終わり、1月8日には平成となった。1月7日は土曜日なので、御用始めの4日から数えると、仕事日は3日しかない。本当に昭和64年製なのかな?
 曽根田からは、歩いて福島駅に戻る。暑かった。駅前の電光掲示温度計は33.2℃となっていた。その暑さが、翌日石巻まで北上してきた、ということ。こんな他愛のない小旅行でも、あれこれと発見がある。非日常は楽しい。いちいち全て切符を買ったら、5440円なり。