機能と外観

 私が今勤務している石巻工業高校という学校の校舎はとても立派である。完成してから既に15年経つが、掃除もよく為されていて、いつもピカピカ。どこかの私立大学のようだ。この校舎に引かれ、わざわざ希望して赴任して来たという人がいるくらいである。
 ところが、しばらく生活していると、機能上の欠陥がたくさん見えてくる。異動して半年ほど経った頃には、どんな建物が悪い建物なのか、建築科の生徒に考えさせるために作ったのではないか、と思うほどになった。はっきり言ってしまえば欠陥建築物である。
 そんな欠陥の中で、最もはっきりしているのは、普通科職員室(2階)や事務室・校長室(1階)のある管理棟が学校全体の北の外れにあり、授業棟に行くために2階にある30mあまりの長い空中通路を通らなければならない、ということである。しかも、驚くべきことに、その通路は本当の空中通路であって、壁がなく、吹きさらしである(吊り橋のイメージ)。さすがに欄干はあるものの、金網である。東北地方で、冬にこの廊下を通るのは過酷だ。なお、設計者は空中通路がよほど好きだったらしく、授業棟、実習棟の3階、4階部分には、空中通路が張り巡らされている。何のために作られた通路かまったく分からない。移動について利用価値がない上に、自殺するためには格好の空中通路なので、常に両端に鍵をかけて立ち入り禁止にしてある。
 そして10年に一度とかいう寒波がやって来た今日、ついに低温と強風のため、昼休みから職員室と授業棟の間の空中通路が通行禁止になった。「通行禁止になることがあるよ」とは聞かされていたが、実際にそうなったのは赴任後初めてである。空中通路の上、すなわち3階部分は図書館になっていて普通の廊下もあるので、3階を経由すれば、教室と職員室を往復することは可能だ。ただでさえ遠い教室がますます遠くなり、管理棟の階段の狭さもあって、時間によっては混雑もひどい。ちなみに、1階部分は車の通行のために接続通路がないので、管理棟1階から屋内を通って授業棟1階に行こうと思った時にも、3階を経由するしかない。ひどい話である。
 なんとも珍しく不思議な話のはずなので、書いておけば面白かろう、というだけのことなのだが、私はもう少し一般化できることのようにも思っている。それはつまり、最近の建物(特に「公」)というのは、同様に、外見ばかり凝っていて、必ずしも機能的、合理的ではないものが多くはないだろうか、ということである。デザインは大切だ。しかし、機能性、合理性を犠牲にしてはいけない。むしろ、飛行機のように、機能性、合理性を徹底的に追求した結果、デザインとしても美しくなった、というのが望ましい。悪いのは設計者ではなく、それを採用する役所の側である。もしかすると、外見ばかり云々、というのは、空疎でパフォーマンス的な政治というものを反映しているのだろうか・・・などと想像する。