え、また戦争？！と驚いた。単に戦争が始まったというだけではない。ハマスがイスラエルを攻撃したというのが理解できなかったのだ。（→私とパレスチナとの関係）
イスラエルを攻撃して、イスラエルがそれに反撃しないわけがない。それは反撃を超えて復讐となることも明白である。しかも、イスラエルの背後にはアメリカが付いている。強力なユダヤ人ロビーが存在し、経済も選挙もそれによって大きく影響を受けるアメリカが、イスラエルを見捨てることは絶対にない。ハマスはやった以上のことをやり返されて多くの血を流す。そうして自分たちが苦しむことが分かっているのに、なぜイスラエルを攻撃するのか？・・・ここまでは現実的な損得の話。
９日の新聞では、早々、アメリカのバイデン大統領が「アメリカはイスラエルと共にある。彼らを支援することを怠らない」と述べたことが報じられていた。あぁ、やっぱり、と思う。
しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領が、「テロは世界のどこにも存在してはならない。人類や世界全体に対する犯罪だからだ」と言ってハマスを非難したという記事を読むと、なんとも釈然としない気分になる。
「テロ」とは、「政治的な目的を達成するために、武力を用いて自分と異なる立場の人に危害を加えること」を言うだろう。ハマスとイスラエル、テロリストは一体どちらなのだろうか？この１週間だけを見れば、それはハマスだ。しかし、時間軸を１００年に拡大すれば、それは間違いなくイスラエルである。
１８００年あまり前に、パレスチナの地を追放されたユダヤ人は、離散先の各地で過酷な迫害を受けた。その中でも有名なのが、ポグロムでありホロコーストだ。自分たちの行く末に不安を感じたユダヤ人たちは、２０世紀に入ると、シオニズムの旗の下、祖国帰還運動を始める。安住の地を求めて、再びパレスチナに戻り、ユダヤ人の国を作ろうとし始めたのだ。しかし、「ここは元々自分たちの土地だった」などと主張されても、それはアラブ人の理解の範囲を超えていた。当たり前である。今更そんなこと言われても困る。それがアラブ人の実感だっただろう。しかも、１８００年あまり前にユダヤ人をパレスチナから追放したのはアラブ人ではなく、当時そこを支配していたローマ人だった。
そのアラブ人から、ユダヤ人は、最初はお金で土地を買い、やがては武力で土地を取り上げ始めた。なにしろ、欧米にユダヤ人の資産家は多い。お金と最新の武器がいくらでも手に入る。ユダヤ人が領有を主張する区域に多くのアラブ人が住み、彼らとの共存の道を探しきれないまま、ユダヤ人は１９４８年にイスラエルの建国を宣言した。その後もユダヤ人は、アラブ人への圧力を緩めない。有名なディール・ヤシン村での虐殺事件を始め、多くのアラブ人を殺し、追放して、つまりはテロによってアラブ人から土地を奪って作られた国がイスラエルなのである。種子島ほどの土地に２２０万人が住むというガザの過酷な生活環境も、そんな歴史的背景を背負っている。
ロシアがウクライナへの攻撃を開始して以降、日本の首相は、よく「力による現状変更を認めない」と言う。その理屈から言えば、ハマスのやったことは悪であり、「テロ」かも知れない。しかし、前述のようなイスラエルの歴史や、ユダヤ人とアラブ人との関係を多少なりとも知る者にとっては、どうしてもそうは思えない。８０年の時間の流れの中で、いかにもイスラエルが大昔から存続してきた国であるかのように認識し、そこへの攻撃を「テロ」と呼ぶのは軽率だ。現実の損得問題として、ハマスがイスラエルを攻撃したことは理解不能だが、そうしたくなる気持ちだけはとてもよく分かる。二つのイデオロギーがぶつかり合い、内戦を行いながら、勝者が敗者を追い詰めきれないままに状況が固定されてしまった中国と台湾や、合意によって確定したはずの国境を侵しているロシア・ウクライナの問題と、パレスチナを同じに考えるわけにはいかない。「力による現状変更を認めない」のはいいとしても、ハマスだけを「テロ」と難じるのは公平を欠く。
ともかく、戦争は起こってしまった。次に私が恐れるのは、イスラエルがガザ絶滅作戦を実行する以上に、一昨日の読売新聞や昨日の毎日新聞にあったように、イスラエルの北に展開している反イスラエル武装組織ヒズボラが機に乗じてイスラエル侵攻を開始し、戦争がパレスチナ全体に拡大すること、更にはイスラエルの背後にアメリカ、パレスチナ・アラブ人の背後に他のアラブ諸国やイランが付き、更にはロシアや中国の動き次第で、パレスチナ紛争が全地球規模での紛争になってしまうことである。
人を殺さないで欲しい。地球環境が絶体絶命の危機的状況にある中で、エネルギー資源の浪費を止めてほしい。つまりは、戦争を止めて欲しい。それ以外には何もないのだが、やっぱりハマスによる攻撃を一方的に「テロ」と難じるのは良くない。そして、誰かが「テロ」だと言い出せば、よく考えもせず「テロリスト＝悪いやつ」だと考える人が現れる。少なくとも、私はアラブ人にかなり同情的だ。
