ウイルスは悪者か?・・・ラボ第33回

 昨晩は、ラボ第33回であった。4月の第32回は、我が家のお花見と兼ねるということで、常連さん限定のご案内だったので、第31回以来4ヶ月ぶりという方もいて、何度か「ずいぶん久しぶりですね」と声を掛けられた。え?2ヶ月に1度というのがペースとして異常なのであって、4ヶ月間が開いたところで、さほど不思議はないのだけれど・・・。

 さて、今回ご登場の講師は、長い(と言ってよいほどになった)ラボの歴史の中でもとびきりの大家、北海道大学教授で同大学人獣共通感染症国際共同研究所所長の髙田礼人(たかだあやと)氏、演題は「エボラウイルスおよびマールブルグウイルス~研究の現状と今後の課題」であった。ちょっとした縁があって、多忙を極める先生に、札幌からわざわざお出掛けいただけたことは、ラボとしてもびっくり!
 この先生の名前が、一般に広く知られるようになったのは、2010年に「情熱大陸」で取り上げられてからであろうが、なぜ「情熱大陸」で取り上げられたかと言えば、おそらく1997年、香港での鳥インフルエンザ流行の際に、現地で縦横無尽の大活躍をされたからである。また、先生は1995年からエボラ出血熱の研究を始めた。2006年からザンビアでその宿主探しを始め、14年の大流行の時にも現地で調査に当たっている。それによって、2015年の「プロフェッショナル」にも登場し、2018年には、その研究成果だけではなく、先生の研究生活の様子を含めて描いた『ウイルスは悪者か~お侍先生のウイルス学講義』(亜紀書房)が出た。
 ラボで誰かに講師をお願いする際、私はできるだけその人の論文や著書に目を通す(当たり前)。『ウイルスは悪者か』は、昨年の夏くらいに読んだ。本が出来る経緯を、今回、髙田先生から直接聞くことができたのだが、奥書で「構成」として名前の出ている萱原正嗣(かやはらまさつぐ)という人が先生へのインタビューに基づいて執筆したらしい。「著者」は髙田先生になっている。
 この本は面白い。ウイルス学や先生の研究内容に加え、研究の方法、危険なウイルスを扱う研究施設の仕組み、髙田先生の趣味や嗜好など、周辺情報のようなことについての記述も多い。そのバランスが絶妙だ。私のようなド素人が、専門的な部分が難しくて理解できなかったとしても、退屈しないような構成である。萱原さん、えらい!
 昨晩のお話は、エボラやマールブルグのような、いわゆるフィロウイルス研究を始めたいきさつに始まり、「ワクチンと治療薬」「診断法」「自然宿主」という3つの柱を立てて、それぞれについて限られた時間の中で最大限明快にお話ししてくださった。突然聞いた人には辛かったかも知れないが、『ウイルスは悪者か』を何度か読んでいた人間にとっては、お話を聞くことで意味が明瞭になってくる部分も多く、面白かった。話の山は、先生が取り組んだ治療薬開発の部分だっただろうか?
 ただ、ラボの前に我が家で先生と「お茶」していた時にも聞いたのだが、本やスライドで用いられているとても分かりやすい絵のようなものが直接見えるわけもなく、絵の元になったような情報が研究現場ではどのように見え(認知され)ているのか、実際に実験に携わったことのない私には実感として分かりにくい。しかし、研究に対するロマンを感じさせる部分でもあるのかも知れない。それにしても、ウイルスというとてつもなく小さなものについて、構造や動態がこれほど詳しく解明されているというのは、まったく驚くべきことである。
 本を読んで知っていたことではあるが、先生は酒豪であり、酒席が大好きな方である。今回のラボは、早々と満席になったし(直前に3名もキャンセルが出て少し慌てた)、2次会の参加希望者も多くなると思われたので、ラボ史上初めて、2次会を予約制にした。参加者は13名。先生の、穏やかながらも明るい人柄のせいもあって盛り上がり、帰宅したら、時計の針はなんと1:30を指していた。