情報の海を泳ぐ時代



 1月の末、化学部と電研部の諸君が、中国の「何とか学会」が主催するソフトウェア制作コンテストに招かれて福建省アモイ(廈門)へ行くというので、私は引率者・K先生に、「何とか学会」の人に相談すれば簡単に買えると思うから、CNKIカードというものを買ってきて下さいと、お願いをした。約10日後、K先生は、少し苦労したけど、と言いながら、私の所望した1000元(約14000円)のCNKIカードなるものを買ってきてくれた。

 これは「中国知識網」というインターネットのサイトで、学術論文をダウンロードするためのプリペイドカードである。日本でも代理店を通して購入可能なのだが、中国で買ったものだと論文一本が数十円であるのに対して、日本で買ったものだと1000円以上にもなるという異常な価格差があって、後者は個人の実用としてはほとんど非現実的なのである。

 このサイトは、中国建国(1949年)以降のほとんど全ての雑誌論文と学位論文、一部の新聞記事を検索し、ダウンロードできるという優れものである(日本にもCiNiiのような論文検索サイトはあるが、本文のダウンロードはほとんど出来ない。中国の圧勝である。私は知らないが、欧米にも同様のサイトはあるのではないか?)。しかし、「過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし」と言うべきか、例えば「辛亥革命」をキーワードとして入力すると、なんと107,715本の論文・記事がヒットする。こうなると、正に情報の海を泳ぐであって、その中から本当に価値ある情報を探し出すのは、なかなか容易な業ではない。

 この一ヶ月、私は、このカードを手に入れた嬉しさから、面白半分、手当たり次第に文献をダウンロードして目を通していたのだが、学生時代に一年もかけてやっていたことが、僅か2週間くらいで出来てしまいそうな爽快感、手応えを感じる一方で、蟻地獄にでも落ち込んでいくような恐ろしさを感じた。文明がいくら発達しても、人間の脳なんて進化しないのだから、この無理はどこかで何か困った問題を生むはずだ、という警戒感も生じてきた。これが、諸君が今から直面する学問の世界の現状である。こんな時、本当に大切になってくるのは、自分の問題意識をしっかり持つとか、人の書いたことについてあれこれ考える前に、基本文献をしっかりと読み込むとかいった基本中の基本なのだろうと思う。困ったときには必ず原点・基本に立ち返る。このことはしっかり心に刻んでおいて損はするまい。