サンライズ瀬戸・・・四国旅行(2)

 「サンライズ瀬戸」で行くというのは、「旅行は線」主義者である私が当初から決めていた四国入りの絶対条件であった。かつて24系寝台客車で運行されていたブルートレイン「瀬戸」が、電車に変わった途端、これほど安っぽい名前になってしまったことは嘆かわしいが(→列車の名前について)、今や日本で唯一の寝台列車である。その希少性は並々ではない。私にとっても、久しぶりの寝台列車であった。
 しかし、この列車は切符の確保が非常に難しいと聞いていた。1ヶ月前の売り出しの瞬間に確保を試みるのは当然として、それでも切符が買えなかったら、次善の策は、本当に、本当にやむを得ず飛行機かなと思っていた。しかし、「サンライズ瀬戸」の切符が買えなかった時に、飛行機の切符を申し込んだのでは、おそらく早割の切符は取れない。仕方がないので、キャンセル可能な早割切符(仙台→大阪→松山)を2ヶ月以上前に確保し、「サンライズ瀬戸」の切符が買えた時点でキャンセルした。家族全員分で6000円余りのキャンセル料を払うことになったが、これは必要経費として仕方がない。
 行程を完全に逆にし、12月28日に高松を出る「サンライズ瀬戸」に乗るのであれば、22日東京発よりは、はるかに切符が確保しやすいだろうということは想像できた。しかし、それはあり得ない選択である。なぜなら、下りは岡山を過ぎたところで夜明けとなり、瀬戸大橋から瀬戸内海を眺めることができるが、高松発21:26の上りに乗って、闇の中で瀬戸大橋を渡り、横浜以降の景色を見ることができても全然面白くないからである。常に「旅行は線」だ。
 11月22日、1週間以上前から仕事のやりくりをして、発売開始時刻の15分前にいつも空いている塩釜駅の窓口に行った。準備万端整えて、発売開始と同時に最後のキーを叩いてもらったところ、切符の確保こそできたものの、既に家族連番では席が確保できなかった。おそるべし「サンライズ瀬戸」。
 どのカテゴリーの切符を買うかは、「Sunrise Expressの部屋」というサイトを見ながら、家族で検討した。結論は特急券だけで乗れる「ノビノビ座席」である。この選択はとりあえず正解だった。「サンライズ瀬戸」は「ノビノビ座席」という絨毯フロアだけが開放で、ベッドは全て個室になっている。これが非常に狭い。しかも、最低でも普通のビジネスホテルの宿泊料に匹敵する6500円ほどの寝台料金が必要な上、通路の両側に個室があるため、夜が明けても、個室からでは片方の景色しか見えない。ただし、私たちが乗った日は、一晩中騒ぎ続ける子どもが乗っていて、ほとんど眠れなかったのではあるが、これは運が悪かったとしか言いようがない。それさえなければ、ベッドを確保するメリットは小さい。
 「サンライズ瀬戸」は基本的に高松行きであるが、多客期には延長運転で琴平行きとなる。12月22日はもちろん琴平行きだ。高松まででも、琴平まででも特急料金は同じで、私たちの第一目的地は琴平なわけだから、切符は琴平まで買ったものの、直前までどこで降りるかについては悩んでいた。と言うのも、琴平行きとは言え、列車は一度高松まで行き、そこから引き返す形で琴平に行く。坂出(さかいで)〜高松を往復するロスがあるわけだ。しかも、高松駅の停車時間はなんと27分である。その結果、四国に入って最初の停車駅である坂出(7:09)で降り、琴平方面に行く普通列車に乗り換えると、「サンライズ瀬戸」より1時間以上(正確には61分)早く琴平に着く。この日のうちに、祖谷(いや)のかずら橋にも行くことを考えると、この1時間は大きい。一方で、朝のんびり電車に揺られ、夜行列車の余韻を楽しむことの魅力にも棄てがたいものがあった。
 結局、家族も「あまり慌ただしいのは嫌だ」と言うので、琴平まで「サンライズ瀬戸」で行くことにした。高松駅での27分は、改札内にあるうどん屋で朝食として讃岐うどんを食べるのにはほどよい時間である。もしかすると、そのためにあえて停車時間を長くしているのかも知れない。だったら、時刻表にその旨書いておけばいいのに・・・。ただし、そこのうどんが決して美味しいものでないのは残念なことである。
 香川県は、おそらく県として讃岐うどんの売り出しに努め、「うどん県」を自称しているほどの場所である。高松駅の駅名表示板にも、ど真ん中にはさすがに「高松」と書いてあるが、ふりがな欄には「さぬきうどん駅」、所在地として「うどん県」と書いてある。他県から来た人が最初に食べる讃岐うどんが満足すべき水準にないことは、致命的なマイナスイメージを作る。わざわざ駅にうどんを食べに来るくらいでなければ・・・。JRの姿勢は甘い。
 新幹線で3時間そこそこで着く姫路や岡山で降りる人が意外に多かったのは驚きだったが、四国まで乗車した人も、多くは坂出と高松で下りた。高松駅を出る時に「ノビノビ座席」に乗っていたのは私たちだけ。琴平で下りたのは10人くらいだった。延長運転の価値ってあるのかな?