オランダの指揮者ベルナルド・ハイティンクが死んだ。92歳。その数日前には、スロヴァキア出身のソプラノ歌手、エディタ・グルベローヴァが死んだ。こちらは74歳。どうも人が死ぬ話が多い。
グルベローヴァは、私の中でも有名だった割に、我が家で録音を探すのは難しかった。くまなく探したとは言えないが、ドホナーニ、ウィーンフィルによるメンデルスゾーンの交響曲第2番「賛歌」なるマニアックな曲で、独唱を務めているのが見つかっただけである。一方、ハイティンクは、映像も含めてあれこれとある。残念ながら、ステージ接したことはない。
ショスタコーヴィチの交響曲全集もよいが、私が最も愛しているのは、マーラーの交響曲第3番である。オーケストラはもちろん、アムステルダム・コンセルトヘボウ。1966年の録音である。河北新報に載った訃報には、「奇をてらわない正統派の指揮で知られ~」と書かれている。正にその通り。ハイティンクの魅力は「奇をてらわない」、それでいて曲に対する深い共感に支えられた雄大で温かい演奏をする点にある。ある意味で個性の激しさに欠けるためか、特別に好きな指揮者ではないが、安心して聴くことのできる指揮者だった。
マーラーの第3交響曲は、私にとって初めて買ったこの曲の録音だったこともあって、ずいぶん繰り返し聴いた。特にその第6楽章!(→参考記事)この楽章において特に重要な速さといい、音の鳴らし方といい、そこには私のイメージ通りの第6楽章がある。
私が持っているCDを聴くと、第6楽章では楽譜をめくる音が聞こえる。決して新しい録音ではないが、否、新しい録音ではないために、楽譜をめくる音を消すこともできずに売りに出してしまったのかも知れない。だが、私には紙の擦れ合うその微かなる音が、この演奏と録音のデリカシーを象徴しているように思われて、むしろ心地よい。
一昨年、ウィーンフィルとの引退公演でブルックナーの交響曲第7番を演奏したのが、NHKで放映された。自宅で「ながら聴き」をしていたこともあって、期待したほどいい演奏には思われなかった。20年くらい前の若かった時期に、会場で聴いてみたかったと思う。合掌