スポーツ庁「部活動改革について」(1)

 今月の上旬、新聞で、スポーツ庁が部活動改革に関する指針を新たに示したことは知っていた。学校における部活動のあり方に非常に批判的な私(→参考記事)であるが、多少忙しかったこともあって、そのうち確認しようと思いつつ、そのままにしていた。そうしたところ、昨日、学校内に文書の写しが出回ったので、初めて全文に目を通し、意外な内容に驚いてしまった。(文書は9月1日付けでスポーツ庁から出ている。正式な名称は「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」で、スポーツ庁のHPで閲覧可能。)
 「意外」と書いたのは、内容があまりにも大胆で、表現も思いきったものだったからだ。2年前の「ガイドライン」でも十分に過激だったが(→参考記事)、今回はその比ではない。ある意味で、「よく言った!」と喝采を送りたいような内容である。
 「部活動は、生徒の自主的、自発的な参加により行われるものであり、学習意欲の向上(←平居感想:部活動がなぜ「学習意欲の向上」と結びつくと考えるのかはよく分からない)や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、学習指導要領に位置付けられた活動である」と、今までも言われてきた公式見解を確認しつつ、次の問題点をはっきりと示している。

「教師の勤務を要しない日(休日)の活動を含めて、教師の献身的な勤務によって支えられており、長時間勤務の要因であることや、特に指導経験がない教師には多大な負担となっているとの声もある。」
「部活動は(中略)教師の献身的な勤務に支えられており、もはや持続可能な状態にあるとは言えない。」

 その上で、

「部活動は(中略)必ずしも教師が担う必要のないものであることを踏まえ、休日に教科指導を行わないことと同様に、休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築すべきである。」

 ここまではっきりと言い切ったのは立派と言う他ない。その上で、部活動を地域活動へと移行させることを全体的方針としつつ、「地域部活動において休日の指導を希望する教師は、教師としての立場で従事するのではなく、兼職兼業の許可を得た上で、地域部活動の運営主体の下で従事することとなる。」とする。
 学校現場で恐ろしいのは、制度がタテマエとして存在しつつ、実際にはその通りに出来ないことが多々あることである。例えば、現在、休日の部活動手当(正式には「特殊業務手当」)は、活動を3時間と想定して2700円と決められている(最低賃金ギリギリ)。5時間やっても、8時間やっても同じである。実際には3時間で終わらない部活動はたくさんあるが、それは3時間で止めない人が悪いという扱いだ。種目の性質、目の前にいる生徒や背後にいる保護者からの要望、職場の雰囲気などなどによって、多くの部活動は「強いられたボランティア」になっているのが現状なのである。休日の部活動指導について上のように言ったとしても、それがタテマエで終わってしまう可能性は非常に高い。だが、今回の指針には次のような記述もある。

「兼職兼業の運用に当たっては、あくまで休日の指導を希望する教師の申請を教育委員会が許可する仕組みであることから、教師が希望しないにもかかわらず、休日の指導等に従事させることがないよう十分留意する。」

 何をどうしても、「強いられたボランティア」になる可能性はゼロにできないのだが、この記述にはそれをなくそうという意欲がそれなりに感じられて評価できる。

 神谷拓『運動部活動の教育学入門 歴史とのダイアローグ』(大修館書店、2015年→この本について)によれば、部活動の過熱は「広域化」「大会の増加」と密接不可分である。この点を解決させず、枝葉末節だけをいじろうとしても、部活動は健全化しない。今回の指針は、この点についてもかなり踏み込んだ記述が見られる。次のようなものだ。

「全国大会に参加できるのは一部の学校であり、大多数の学校が関係するのは地方大会である。このため、学校の働き方改革の観点も踏まえ、主に地方大会の在り方を整理する必要がある。」

 そして、次項では、国が全国大会の見直しをするとともに、このことを地方自治体に「要請」し、更には、参加する各校の部活動にも「参加する大会の精選」に努めるよう求めている。
 わずかにA4版5頁の簡潔な指針の割には、問題点をよく抑え、表現にも曖昧さがなく、実効ある指針にしようという意欲が強く感じられる。「画期的」と評価してよいだろう。だが、だからと言って、この指針に従うことには問題がある。明日、その点に触れることにしよう。