原点から見た台湾問題

 中国が台湾の周囲で大規模な軍事演習を始めたという。台湾の新総統の就任演説が気に食わなかったらしい。本当に困ったものである。どう考えても、戦争なんかしている場合ではないのに・・・。中国と台湾の問題について、少し私の考えを書いておこう。私が考えていることで、他の人が言うのを聞いたことがないのは、共産党の目的(目標)とは何か?ということとの関係で、台湾を考えることである。
 まずは、中国が台湾を中国の一部であると主張しつつ、なぜ現実には二つの政権に分かれているのか?簡単な復習をしておこう。
 中国では、辛亥革命後、資本主義政権である国民党が実権を握ったが、国民党支配下での貧富の格差があまりにもひどく、抑圧された民衆が多数いたことから、みんなが食える社会の実現を目指して共産党が誕生した。日本が侵略の意図を見せていたことから、両者は対立しつつ協調の道も模索していたが、日中戦争(大きくは太平洋戦争)の終結と共に、中国は内戦状態となった。1949年10月に共産党は大陸のほとんど全てを支配下に置き(共産党は「解放し」と言う)、中華人民共和国の成立を宣言する。この時、国民党は台湾に逃亡して、独自の政権を樹立した。言わば、共産党は国民党の残党を攻め残したのである。
 なぜ、台湾に逃亡した国民党政権を最後まで追い詰めなかったのか?実は私もよく分かっていないのだが、おそらくは、建国に関する膨大な作業に追われて、そこまでする余裕がなかったのである。もしくは、大陸から追放した時点で、国民党はもはや永久に自分達を脅かす存在ではないと判断し、どうでもよくなってしまったのである。
  そもそも、台湾島が元々中国固有の領土だったということはない。これまた、台湾島の歴史というのは分かりにくいのだが、おそらくそのことは間違いがないだろう。
 さて、ここで中国共産党の原点を確認しておこう。とりあえず、中国共産党の結党大会(1921年7月)で採択された最初の綱領には、「資本家を倒し、労働階級による国家を建設し、もって階級的差別を消滅させる」「プロレタリアート独裁を採用し、もって階級闘争の目的(階級の消滅)を実現する」などという言葉が並ぶ。階級の消滅とは、貧富格差の解消である。とにかく、みんなが食えるように、それこそが共産党の目指すものだった。
 「階級の消滅」と言うが、大切なのは、階級が消滅したかどうかではなく、全員が食えるかどうかである。現在、中国でも台湾でもそれなりの貧富の差はあるが、最下層でも1920年代の最下層とは貧窮の度合いがまったく違う。少なくとも、餓死者が出るような状態ではないはずだ。それは、本来の共産党の考え方に沿った社会ではなくても、目標の実現した社会であるとは言える。
 中国では最下層でも食えるが、台湾の最下層は食えていない、というなら、中国が台湾を自国の一部にしようとすることには合理性がある。しかし、食えているにもかかわらず、台湾を併合しないと気が済まないというのは、共産党の本来の目標に反する。まったくただの覇権主義である。
 日本の北方領土も含めて、世界の国々の現在の実効支配地域には不満の残る点も、明らかに不合理な点もあるだろう。しかし、人間の持っている武力が大きすぎる上、環境問題が深刻である今の世の中では、何もかも棚上げして、現状維持を目指すしかない。中国共産党は、1949年時点で国民党を全滅させなかったのが失敗だったのだ。それから75年を経た今となって内戦の続きをするというのは、実にバカげたことである。そもそも、自分達にとっての最も大切な目標は実現しているわけだから、その必要はないことを自ら再確認すべきなのだ。ここで台湾を武力併合しようとすれば、自分達が原点を忘れたことを暴露することになり、それは中国共産党の名誉にも関わることである。